ピロリ菌は、正式名称を「ヘリコバクター・ピロリ」といい、1983年、オーストラリアのRobin Warren(ロビン・ウォーレン)、Barry Marshall(バリー・マーシャル)という二人の医師によって発見されました。
彼らは、ピロリ菌発見の業績により2005年、ノーベル医学・生理学賞に輝きました。
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は
- ヘリコ = らせん
- バクター = 細菌
- ピロリ = 幽門(胃の出口のほう)
ということで、「胃の出口あたりに住みつく、らせん形をした細菌」の意味です。
胃は強い酸性の消化液である胃酸を出して、細菌から人体を守っています。
ほとんどが胃酸で殺菌されてしまう中で、ピロリ菌だけは生きのび、病原性を発揮します。
どうして強酸性の胃内でピロリ菌は生きられるのでしょうか。
それは、ピロリ菌が“ウレアーゼ”という物質を出してアルカリ性のアンモニアを作り出し、胃酸を中和できるからです。
ピロリ菌の発見が驚きをもって世界に受け入れられたのは、強酸性の胃内に細菌が生息している、という事実のみならず、「ピロリ菌が胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんの原因」であることが明らかになったからでした。
参考文献:ヘリコバクター・ピロリ菌およびその胃炎や胃潰瘍における役割の発見(2005年)、Surgery Frontier (1340-5594)20巻2号 Page127-130(2013.06)
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌が胃内に入って感染すると、100%、胃炎を起こします。
そして慢性胃炎を背景に、胃や十二指腸の潰瘍、胃がんが発生するのです。
日本は大変胃がんの多い国で、今日でも1年間に13万人以上が胃がんにかかり、5万人が胃がんが原因で亡くなっています(罹患数は大腸がんに次ぐ第2位、死亡数は肺がん、大腸がんに次ぐ第3位。2014年)。
胃がんの原因はピロリ菌です。日本人に胃がんが多いのは、ピロリ菌を持っている人が多いからなのです。
参考文献:ヘリコバクター・ピロリ菌およびその胃炎や胃潰瘍における役割の発見(2005年)、Surgery Frontier (1340-5594)20巻2号 Page127-130(2013.06)
ピロリ菌はどこからやってくる?—感染経路について
ピロリ菌は口から胃内に入り込むと考えられており、免疫が未熟な子ども時代(ほとんどは5歳以下)に感染するといわれています。原則、大人になってからは感染しません。
上下水道が完備されていなかった時代は、飲料水や排泄物に含まれるピロリ菌を摂取して感染する人が多くありました。
衛生状態が向上した今日、ピロリ菌にかかる人はどんどん減少していますが、今でも60歳以上の過半数がピロリ菌を持っていると推定されています。
現在の日本では、ピロリ菌を持っている親や祖父母から子、孫への家族内感染が主な感染経路と考えられ、次世代への感染防止が課題となっています。
参考文献:わが国におけるHelicobacter pylori感染率の推移とその影響 Helicobacter Research (1342-4319)19巻5号 Page439-444(2015.10)
ピロリ菌の検査方法と除菌のすすめ
では、ピロリ菌の有無はどうしたら調べることができるのでしょうか。
内視鏡(胃カメラ)を使って調べる方法と、血液や便、呼気を使って調べる方法があります。
内視鏡検査で胃炎や潰瘍と診断され、検査でピロリ菌の感染が証明された場合、除菌の対象になります。
注意点としては、除菌のルールとして、内視鏡検査が必須になっていることがあげられます。
健診等の際、血液や呼気の検査でピロリ感染が判明しても、内視鏡検査を受けてからでないと除菌できないことになっています。詳しくは最寄りの医療機関にご相談ください。
除菌には、「抗菌薬」と「胃酸の分泌を抑える薬」を1日2回、7日間飲んでもらいます。
これで約9割の方が除菌に成功します。1度目がダメでも、2回まで除菌できます。
除菌できたかどうかは、除菌後4週間以上あけて、吐いた息を調べることで判定します。
副作用は下痢・軟便、味覚異常、発疹などですが、ほとんどの場合は安全に内服できます。
除菌に成功すると、胃がんになる危険性を下げることができますが、完全に予防できるわけではありません。除菌に成功しても定期的に検査を受けるようにしましょう。
参考:
まとめ
- ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は「胃の出口あたりに住みつく、らせん形をした細菌」の意味で、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんの原因であることが明らかになっています
- 日本人に胃がんが多いのはピロリ菌を持っている人が多いからです。免疫が未熟な5歳以下で感染するといわれています
- ピロリ菌の検査方法には内視鏡を使った方法と、血液や便、呼気を使った方法があり、検査でピロリ菌の感染がわかった場合、除菌の対象になります(ただし除菌には内視鏡検査が必須)
- 除菌には「抗菌薬」と「胃酸の分泌を抑える薬」を1日2回、7日間の服用が必要です。除菌に成功しても胃がんの完全な予防にはならないので、定期的に検査を受けましょう