日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #112

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント〜ゲームに勝つ心得とは(徒然草 第171段)

ゲームに勝つ心得

年末年始などを家族や親戚と過ごすのは、子どもからご年配の方まで、幅広い世代が集まる楽しさがある一方で、言葉が通じない、歌が分からないなど、ジェネレーションギャップに戸惑うことはないでしょうか。
そんな時は、みんなで、かるたやトランプなどのゲームをすると、ぐっと打ち解けられたりしますね。
ところで、ゲームには勝敗がつきもの。子どもに花を持たせるのもいいですが、勝っていいところを見せたい時もあります。

ゲームに勝つ心得が、『徒然草』に書かれてあるそうです。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

外へ目を向けず、まず自分を見つめる

──木村さん、『徒然草』には、どんなゲームが書かれているのですか。

はい、平安時代末期に、「貝合わせ」という遊びがありました。
現在の、かるた大会を連想してください。
かるたの代わりに、ハマグリの貝殻を使います。

──へえ、かるたの代わりに、ハマグリの貝殻とは、風流ですね。

まず、ハマグリの片方の貝殻を、ゲームに参加するメンバーの前に360個並べます。

そこへ、かるた大会で上の句を詠むように、もう片方の貝殻が一つ出されます。

いち早くその形を見極め、あらかじめ並べられている多くの貝殻の中から、それと対になる貝殻を見つける遊びです。

最も多く対になる貝を集めた人が勝ちます。

──ハマグリの貝殻が360個も並んでいると、目が泳いでしまいそうです。

では、兼好法師から、必勝法を聞いてみましょう。

──よろしくお願いします。

【意訳】
貝合わせの遊びをする人の中には、自分の目の前にある貝をしっかり見ようとせず、他の場所を広く見渡して、人の袖の陰や膝の下まで真剣に見ている人が多いですね。

しかし、そんなことをしているから、自分の目の前にあった貝を、他の人に取られてしまうのです。

この遊びが上手な人は、他人の前にある貝を無理に取ろうとはしません。自分の近くにある貝ばかり取っているように見えますが、そのほうが、結果的に、たくさんの貝を集めることができるのです。

このように何事も、外へ目を向けずに、まず自分自身を見つめ、行いを正しくしていくことが大切なのです。

その反対に、軽率で、勝手気ままで、だらしないことを続けていると、いろいろな問題が起こってきます。そうなってから、「どうしたらいいだろうか」と、人に相談し、助けを求める人ばかりです。

このようなことは、医書に、
「不健康な生活を続けていると必ず病気になる。そんなことを繰り返していながら、いざ体を壊すと、慌てて神に病気平癒の祈願するのは、ばかな人だ」
と書かれているのと同じで、実に愚かなことなのです。

【原文】
貝を覆う人の、我が前なるをばおきて、よそを見渡して、人の袖のかげ、膝の下まで目をくばるまに、前なるをば人に覆われぬ。よく覆う人は、よそまでわりなく取るとは見えずして、近きばかり覆うようなれど、多く覆うなり。(第171段)

『徒然草』からの生きるヒント〜ゲームに勝つ心得とは(徒然草 第171段)の画像1

(『月刊なぜ生きる』令和3年8月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト 黒澤葵 より)

自分を見つめて、スタート

木村耕一さん、ありがとうございました。

かるた大会で、遠くのかるたに気を取られていると……。

ピシャリ。

自分の手元のかるたを取られて「しまった!」と、何度、悔やんだことでしょうか……。

他人の前にあるのを無理に取ろうとするのではなく、自分の近くにあるものを、着実にゲットするのがヒケツだったのですね。

また、かるたの勝負を通して、生き方のヒントも、兼好さんは教えてくれます。

何事につけても、「あの人が、やってくれたらよかったのに」「あの人のせいで、こうなった」と、他人への注文や文句になっていないだろうか……、と反省いたしました。

他人に目を向ける前に、私にできることはないだろうか私がこう動いたら変わるかもしれないと、自分自身に目を向けることが大切なんですね。

新しい年、まず自分を見つめて、スタートしたいと思います。

意訳で楽しむ古典シリーズ 記事一覧はこちら