もし子どもが「境界知能」だったら?正しい学習の進め方をご紹介
昨年6月と11月、1万年堂ライフで「境界知能」に関する記事を掲載したところ、
「うちの子は『HSC』や『発達障がい』かと思っていましたが、実は『境界知能』でした」というお声を多数いただきました。
もし我が子が「境界知能」だったら、どのように学習を進め、学力を伸ばしたらいいのでしょうか。
今回も、塾講師歴30年の阿部順子先生にお聞きしました。(1万年堂ライフ編集部)
▼平成2年9月に発売しました阿部先生の著書です!
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「境界知能」って何?
「境界知能」とは、ⅠQが69以下の知的障害には該当はしなくても、ⅠQ70~84で一定の支援が必要な人たちのことです。
境界知能について詳しくは下記をご覧ください。
子どもが「境界知能」かどうか調べる方法は、
診断の手続きは自治体によっても異なりますが、東京では各区に置かれた教育センターでWISC検査ができることがあります。
WISC検査とは「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQ(知能指数)を数値化する検査で、その子の「得意な部分と苦手な部分」から「その子にとってより良い支援の手がかりを得る」ことを目的として行う検査です。
この検査によってⅠQが計測でき、「境界知能」かどうかが判定できます。(IQが70~84であれば境界知能)
知能指数(IQ)が低いと成績も悪くなるの?
「境界知能」かどうかを判定する数値に、IQ(知能指数)があります。
このIQが低いと成績も悪くなるのでしょうか。
「うちの子は、IQ120だから優秀です」と、まるでIQがそのまま能力や学力であるかのようにおっしゃる親御さんが多くいます。
確かにIQが高い人は学校の成績が優秀である傾向にあります。
しかし、IQが高くても集中力がない子や勉強がきらいな子もいれば、IQが低くても知的関心が高かったり、勤勉であったりする子もいます。
例えばIQが110あったとしても、勉強嫌いでやる気がないAくんと、IQが90でも集中力と勤勉さを兼ね備えたBくんとでは、Bくんの方が成績の良い場合があります。
成績は、IQ以外の要素も加わるため、IQの数値がそのまま成績に反映するわけではありません。
学習面でIQは、あくまで「参考の目安」として理解したらいいでしょう。
「境界知能」は、勉強に向かないの?
「境界知能」のお子さんを持つ親御さんの中には、「勉強しても将来使わない」「できないのならやってもムダ」と子どもへの学習支援をあきらめてしまうケースがあります。
もちろん、学んだ知識の全てが、将来生きるわけではありません。
しかし、努力する訓練になったり、自信につながったりと勉強を通してプラスの結果に結びつく場合もあります。
「境界知能」のお子さんでも「伸びしろ」はありますので、勉強するのとしないのとでは、当然に差は生まれます。
お子さんの気持ちとペースに配慮しながら、無理なく学力を向上させる方法を探してみてはいかがでしょうか。
「境界知能」に合った学習の進め方とは?
我が子が「境界知能」と分かったら、どのように学習を進めるのがよいのでしょうか。
まず大切なのは、親が子どもの状況を冷静に受け止めることです。
勉強が遅れるのは、子ども本人にとっても、つらく不安なことです。
親の何とか頑張らせたいという気持ちから「勉強ができないと、この先困るわよ」「どんどん難しくなるのよ」など、つい厳しい言い方をしてしまうかもしれません。
しかし、追い詰めるのではなく、子どものために「〇〇をしていこう。そうすれば大丈夫だよ」と笑顔でやさしく声をかけましょう。
勉強が苦手な点や、取り組みたくない気持ちを受け入れながら、「長い目で見ること」「心を安定させた上で、方向性を示すこと」が何より大切なのです。
お子さんの得意不得意や、レベルを把握し、「どうしたら前向きに学習できるか」の答えを探しながら進めましょう。
答えが出ない時は、子どもに聞いたり一緒に考えたりすればいいのです。
子どもながらに、自分がつらいときに寄り添ってくれた親に強い愛情を感じます。
それが力になって学習が好循環し、健かな成長に結びついてゆくのではないでしょうか。
学校や塾の先生への対応の仕方
「境界知能」のお子さんは、「やる気がない」「さぼっている?」など、指導者から誤解を受けることがあります。
学校や塾の先生から「この問題、昨日も教えたよね」「この問題、教えるの3回目だよ」などと叱責されると、「できない自分が悪いんだ」と傷つくお子さんもいます。
つらい学習環境では学力が伸びないばかりか、自尊心を低下させかねません。
学校や塾から帰ってきた時、つらそうにしていないか、子どもの表情をチェックしましょう。
学校では先生一人が30名前後の生徒を指導しているので、各人を深く理解することは難しいのが現状です。
子どもが勉強に苦労している場合は、学校や塾の先生に理解を求めることが大切です。
やっていないのではなく、自宅で行っている取り組みを伝えて「やっているができないこと」を伝えましょう。
具体的には、自宅で何をどのようにサポートしているかを説明した上で「(例えば)テストでは70点取れればよいと思っている」ことも伝えましょう。
子どもが頑張って70点取れたにも関わらず、先生から「もっとしっかり勉強しなさい」と注意されたら、やる気をなくしてしまうためです。
先生が状況を正しく理解してはじめて、子どもは前向きに学習できるようになるのです。
「境界知能」の学力の伸ばし方
「境界知能」のお子さんの学力の伸ばし方について、正解は一つではないかも知れませんが、参考までに私の事例を2つほどご紹介いたします。
「境界知能」で小学5年生のMちゃんは、算数が大の苦手でした。
3年生になり、分数が出てきたあたりから授業についていけなくなりました。
問題が少し複雑になると理解できなくなってしまうのです。
例えば、円の半径と直径の関係で【半径+半径=直径】は理解できるのですが、【半径×2=直径】でも求められることを教えると、混乱します。
このまま続けていくと自信をなくしてしまいますので、Mちゃんの得意な面を探しました。
本が好きで文章を読むことが好きなのが分かりました。登場人物の心情などは細やかに把握できるのです。
そこでまず、文章の読解力を伸ばすことに注力しました。
しばらくして学習への自信が出てきた頃、算数のやさしい問題を解かせて、少しづつ苦手意識を減らしていきました。
単純な作業を繰り返すと苦しくなってきますので、別の日には単語や数字を替えた類題を解いてもらいます。
例えば、長方形の面積を求める問題なら、辺の長さを求める問題に変えるなどです。
自信がつくまでは、クイズのように軽やかに解ける、やさしい基本問題に絞ります。
達成感、できる喜びを感じてもらいながら、繰り返し基礎を積み上げていきました。
半年を過ぎる頃には、Mちゃんの勉強への嫌悪感がほとんど消えていました。
勉強時間も増え、算数の複雑な問題、さらに漢字の習得にも前向きに取り組むようになりました。
特に「境界知能」のお子さんの学力を伸ばすには、得意な科目から伸ばして勉強への意欲を高めてから、不得意な科目にチャレンジさせることが大切です。
では、すでに学年での勉強が遅れている場合には、どのように対応したらよいのでしょうか。
学年の勉強に遅れている場合は?
Tくん(小学5年生)は、真面目で優しい性格ですが、勉強が苦手でした。
お母さんは、Tくんが低学年までは寛容に構えていました。
しかし、Tくんが高学年になり授業についていけなくなると、将来が心配になって、どうしてもガミガミと言ってしまう日が増えたそうです。
話を聞くと「この前一緒に勉強したとき、小学2年生の漢字も書けない、算数もできなかったので、今は2年生からやり直させています」ということでした。
ただこれでは、5年生の学習内容が不十分になりやすく、テストの点にも反映しませんので、漢字も算数も現在習っているところを学習するよう助言しました。
漢字は、覚えたことがすぐにテストに反映しやすいので、勉強への達成感につながります。
算数は、積み上げの教科ですが、高学年でも基礎は比較的簡単にできるものが多く、とりこぼした部分も長期の休みに補えば問題はないかと思われます。
もちろん、かけ算や足し算などができない場合は、同時に進める必要があります。
しかし、学校で習っている基礎的な内容を先に身に付けさせたほうが、テストの結果に表れやすいため、自信や達成感につながります。
この方法で勉強したTくんは、漢字や算数の理解を深めながら、成績もみるみる向上していきました。
すでに学年の勉強に遅れてしまった場合は、前の学年に戻って勉強させるよりも、今の学年で習っている基礎問題を解くことを優先させたほうが、学力は伸びやすいのです。
「境界知能」に合った塾や先生の見つけ方
子どもの学力を伸ばすために塾に通うのも選択肢の一つです。
塾とはいっても規模や形態はさまざまあります。
「境界知能」のお子さんに合った塾や先生をどのように見つけたらいいのでしょうか。参考までにご紹介します。
①カリキュラムがなく、子どもに合わせた科目を学習できる塾
「境界知能」のお子さんは、科目の得意不得意がさまざまなため、多人数の塾には向かないことが多いです。
また、決められたカリキュラムや教材を使っている塾は、学習の難易度が合わない場合があるため、子どもに合わせた科目を学習できる塾がおすすめです。
②担任制で指導してくれる、先生と直接相談できる塾
「境界知能」のお子さんの学力を伸ばすには、その特性や能力を正確に把握する必要があるため、先生が頻繁に変わることは望ましくありません。担任制で指導してくれる塾をおすすめします。
実際に担当する先生と会って、雰囲気や人格を見てから子どもの指導を頼むのがいいでしょう。
話をして3~4回目になると、お互いの性格なども分かり打ち解けられることが多いため、先生と直接相談、面談できる塾なら間違いはありません。
③子どものメンタルに留意してくれる先生
学習面だけでなく、メンタル面も配慮しケアできる先生なら、ベストです。
塾に入るときは、子どもが「境界知能」であることを伝え、
「子どもが同じ質問を繰り返しても、あまり責めないで」
「すぐに理解できなくても、根気強く丁寧に答えてほしい」
「自信をなくしているので、明るく励ましながら指導してもらいたい」
など、具体的にメンタルにも留意してほしいと依頼しましょう。
境界知能のお子さんは繊細な子が多いです。
先生のちょっとした言動が子どもの自信にも絶望にもつながることを、きちんと理解してもらいましょう。
そうすることで、子どもは前向きに学習に取り組むようになり、学力はグングン伸びていくのです。
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