『平家物語』ブームに
古典ファンにとって、うれしいお知らせです。
杉並区立宮前図書館(東京都)では、2月の古典特集として「兵(つわもの)どもの栄華之夢」をテーマに、『平家物語』が取り上げられています。
(写真提供:杉並区立宮前図書館)
木村耕一さんの『美しき鐘の声 平家物語』全3巻を展示してくださっています!
また、図書館だよりにも紹介していただきました!
(「宮前だより」発行:杉並区立宮前図書館)
https://www.library.city.suginami.tokyo.jp/info/miyamae/2022.html
NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も、この時代が舞台ですね。
テレビアニメ「平家物語」が、今年1月から放映され、ブームになっているようです。
そんな『平家物語』には、何が書かれているのでしょうか?
木村耕一さんにお聞きしました。
歌うように語っていた物語
【原文】
祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり。
娑羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことわりをあらわす。(平家物語)
──このフレーズは、学生の時に暗記しました。声に出して読んでみると、かっこいいですよね。
はい、『平家物語』の文章には、リズムがありますね。
盲目の法師が、琵琶を奏でながら、歌うように語っていた物語だからだと思います。
「あっ」と感動したり、「ほろっ」と涙したりする場面が、随所に、織り込まれています。
今日でいえば、ライブハウスで、ギターやピアノを弾きながら歌うのに似ています。
──弾き語りで伝わってきたのですね。では、『平家物語』には、何が書かれているのでしょうか。
冒頭の名文で明らかなように、「諸行無常」「盛者必衰」がテーマです。
「諸行無常」とは、「全てのものは、長続きしない」。
「盛者必衰」とは、「盛んな者も、必ず衰える時が来る」という意味です。
──そうですか。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ていると、平家はこの世の春で、栄華を誇っていますが、源頼朝が北条家と協力して「打倒平家」の狼煙を上げていました。平家について威張っていた人が、あっけなく倒されて……。長続きしないなと痛感します。
なぜ、頼朝は殺されなかったのか
平家の大発展は、平治の乱(1159)で、平清盛が勝利したことから始まりました。
敗れた源義朝は殺されました。この時、13歳の頼朝も平家に捕らえられます。
源氏の棟梁・義朝の子供ですから、死刑にするのが当時の常識でした。
──なぜ、頼朝は殺されなかったのでしょうか。
清盛の義母・池禅尼(いけのぜんに)が、「死んだ息子によく似ている」という理由で、助命嘆願をしたのです。
池禅尼は、頼朝を助けるために断食まで始めたため、清盛も折れて、伊豆への流罪に減刑したのでした。
──清盛は、冷酷無比な人かと思いましたが、情けもあったのですね。それで、大河ドラマでは、頼朝・佐殿(すけどの)は、伊豆にいたのですね。
はい。源頼朝は、生涯、池禅尼の恩を忘れませんでした。
平家を滅ぼした後も、池禅尼の息子・頼盛の一族を保護したといわれています。
ハッピーエンドではない『平家物語』
『平家物語』には、平清盛が、日本史上、例のない出世を果たすまでのサクセスストーリーは書かれていません。
──えー、そうだったのですね。
はい、ここが、豊臣秀吉の『太閤記』と違うところです。
少しだけ、平家の歩みを書いたあと、いきなり「太政大臣」という最高のポストを得た清盛から始まります。
そして、一見、華やかに見える平家一門が、わずか18年後に、壇ノ浦(だんのうら)の海底に沈んでいくまでを描いているのです。
主人公が、苦労して成功を収めるまでの物語ならば、ハッピーエンドになるでしょう。
しかし、それは人生の片面でしかありません。むしろ、その後のほうが大事なのです。
──確かに、人生はいい面ばかりではないです。つらい、苦しい時の方が多いかもしれません。
山の頂上まで登った人は、それから、どうするのか。
頂上まで登ることができず、挫折した人は、どうなるのか。
必ず直面する死に、どう向き合えばいいのか。
こういうことを、真っ正面から描いた物語は、他にはないように思います。
──そんなことが描かれているとは、驚きました。
「どう生きたらいいのか」を考えるヒントに
──『平家物語』は、軍記物ですから、合戦の物語ですよね。
いいえ、源氏と平家の合戦ばかりが描かれているのではありません。
親と子の絆、夫婦の絆、主従の絆が描かれている場面が、とても多いのが特徴です。
清盛にも、子供や孫があります。罪を犯して流罪になる人たちにも、妻や子供がいます。
──清盛と聞くと、歴史上の人物で遠い存在のように思いますが、今の私たちにも通じるようですね。
『平家物語』はフィクションではありません。実際にあったことを基に書かれています。
清盛だけでなく、物語に登場する人物は、さまざまな苦難に直面します。
その時、人間は、どう行動するのか。
その結果、どうなったのかを読んでいくと、とてもためになります。
時代は違っても、同じ人間ですから、同じようなことが、私たちの人生にも、起きるからです。
──「どう生きたらいいのか」を考えるヒントになりますね。
はい。そういう読み方をしてこそ、「諸行無常」「盛者必衰」の現実を見つめて、そこを乗り越えて進む、強い生き方が生まれると思います。
(『美しき鐘の声 平家物語』木村耕一著 イラスト 黒澤葵 より)
『美しき鐘の声 平家物語』の試し読みはこちら
木村耕一さん、ありがとうございました。
『平家物語』には、様々な人間模様、人生が詰まっているのですね。
こちらから、試し読みができます!
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