料理中の、突然の指先のケガ。とても困ってしまいますね。
しかし、こんなお悩みはすぐに解消!とっておきの治療法を、ケガの患者さんを毎日たくさん診ている外科医師がお答えします。
キーワードは「昆布」と「圧迫」、そして「うるおい」です。
ポイント①昆布から抽出されたアルギン酸カルシウムの被覆材を貼る
「えっ?昆布で血を止めるんですか?」と思われますよね。
出血を強力に止める優れもの。それはアルギン酸カルシウムです。アルギン酸カルシウムは昆布などの海藻に含まれています。
台所にある昆布をキズに貼るのではなく、アルギン酸カルシウムを繊維状にした被覆材を貼り付けます。
アルギン酸カルシウムを使った被覆材は「アルギネート創傷被覆材(そうしょうひふくざい)」といわれ、商品名は「ソーブサン」「カルトスタット」「プラスモイストヘモスタパッド」などです。
病院で医師も毎日使っていますし、一般の方でもドラッグストアなど市販やネット通販などで購入できます。
どうしてアルギン酸カルシウムで血が止まるの?
アルギン酸カルシウムは繊維状になっていて、血液などの液体を吸ってゲル化します。
このときに、カルシウムイオンを放出し、そのカルシウムイオンが血液凝固を促進するのです。
カルシウムって骨を作るだけじゃなくて、血を固めるはたらきもあるんですね。
アルギネート創傷被覆材を、出血しているところに直接貼って、ラップなどで覆い、患部を心臓より上に上げて軽く圧迫しますと、たいていの出血は止まります。
このように初期治療してから医療機関を受診されたらよいと思います。
世の中には誤った治療法をするお医者さんも…
お医者さんでも「どうしてこんな治療法を知っているのですか?」と、目を丸くする人がきっといるでしょう。
世の中にはこういう治療法を知らない医師もいて、代わりに網目様のガーゼなどを貼られることもあります。
そんなものを貼られたら最後、剥がすときにとっても痛くて、せっかく血が止まったのにまた出血するという悲惨なことになります。
そんなときは勇気を出して、「アルギネート創傷被覆材を使ってください!」と大きな声で言いましょう。
ポイント② 縛るのはNG!出血している部位を強く圧迫する
手足のケガで止血のために、手首や太ももをタオルやヒモで縛って外来に来られる方があります。
しかしこれは逆効果です。
静脈の流れをせき止めて手足がうっ血し、逆に出血がひどくなってしまいます。
最も効果的なのは、きれいなタオルやハンカチなど(もしそこにあればアルギネート創傷被覆材がベストですが)を使って、出血している部位をピンポイントで強く圧迫するのが正しい止血法です。
外科医が手術中に出血させたときも、基本は「まず圧迫」です。
圧迫止血しながら急いで医療機関を受診してください。
ポイント③ 止血したら乾かすは間違い!治癒にはうるおい環境が大事
血が止まったら、キズが治るまでどうしたらいいのでしょうか?
キーワードは「うるおい」です。
よく「乾かしたほうがキズは早く治る」と思われている方がありますが、これは間違いです。
うるおい(湿潤)環境がなければキズは治りません。
私は大学院生のときに研究室で細胞の培養をしていました。
ある日、培養器の水の補充を忘れてしまい、細胞が全部干からびてダメにしてしまったことがありました。細胞が増えるのには水分が絶対に必要です。
生体も一緒で、キズを治すためには細胞が増殖できる環境が必要です。それが「うるおい(湿潤)環境」です。
「キズにはガーゼ」が定番のように思われていますが、皮膚が欠損したキズにガーゼを当てていては、とても治りが悪いのです。ガーゼがキズから水分を吸収して乾燥させてしまうからです。
私たち外科医はうるおい(湿潤)治療として、ハイドロコロイドやポリウレタンフォーム・ドレッシング材などを使用しています。
ドラッグストアやネット通販でも、これらの創傷被覆材が販売されておりますので、ご自宅でも同様の治療ができます。
ただし、
キズが赤くなって腫れている、
膿が出る、
痛みが強い
などの場合は細菌感染が疑われますので、必ず医療機関を受診してください。
キーワードは「昆布(アルギネート創傷被覆材)」と「圧迫」「うるおい(湿潤治療)」です。
これで少々のケガなら対応できますよ。
まとめ
- 指を切ったときは「ソーブサン」「カルトスタット」「プラスモイストヘモスタパッド」といったアルギネート創傷被覆材を出血しているところに直接貼るのが適切な処置になります
- 患部を縛るのは逆効果で、出血がひどくなる可能性があります。縛らずに、きれいなタオルやハンカチなどを使って、出血している部位をピンポイントで強く圧迫するのが良いです
- 「乾かしたほうがキズは早く治る」は間違いであり、「うるおい」を保つことが大切です。ハイドロコロイドやポリウレタンフォーム・ドレッシング材などの創傷被覆材を使用しましょう
参考文献:『さらば消毒とガーゼ』〔夏井睦著(2005年). 春秋社〕