育児マンガ家として、四半世紀にわたって子育て世代に親しまれてきた、高野優さん。
執筆した書籍は40冊を超え、NHK育児番組では司会を務めたことも。メディアや講演での愛とユーモアにあふれたトークが人気です。
そんな高野さんが今、夢中になっているテーマが「HSP(ひといちばい敏感な人)」。
令和元年に上梓した『HSP!自分のトリセツ~共感しすぎて日が暮れて』では、HSPを知った喜びがパワフルに表現されています。
5月には、ついに待望の第2弾も発刊予定です!子育ての悩みを笑顔に変え続けた力で、HSPの生きづらさにも、きっと素敵な虹を架けてくれるに違いありません。
今回は、そんな“高野ワールド”にすっかりはまり込んだ編集者(見習い)が、HSPの発信に懸ける高野さんの想いをお伺いします。【聞き手:シュウ】
インタビューのお相手(高野優さん)
育児マンガ家としての役目は、もう果たしたと思いました
――高野さんは現在、HSPを発信していくことに力を注がれています。マンガエッセイの執筆はもちろん、HSPセミナーや座談会を開かれるなど、私もHSPなので、高野さんのご活躍に目が離せません。
高野優さん(以下、高野):そうですね。今はHSPを伝えたい! という気持ちが強いです。HSPを知って、色々な書籍を読み漁ったんです。もう楽しくて、夢中になってしまったぐらい。
――それまでの育児マンガも、とにかく大人気で、私も何冊か読ませてもらいました! とっても面白かったです。
高野:嬉しい!ありがとうございます! 育児マンガは、かれこれ四半世紀にわたって描き続けてきました。でも当初は、誰かを元気づけようという余裕なんて全くなかったんです。
――えぇ! そうだったんですね。
高野:とにかく、毎日の育児が大変で。ただその大変さをユーモアに変えると、ちょっと楽しくなるんですよね。自分が。
――ユーモアに変える?
高野:今でもはっきり覚えているのが、次女が2歳ぐらいのときのことです。イタズラをしたので怒ったら、「わたしじゃない」って言い張るんです。
それで「正直に言いなさい!」と言ったら、コクリと頷いて、目に一杯涙を溜めながら、掃除機に向かって謝り出したんです。
――えっ、掃除機?
高野:だから「しょうじき(掃除機)に言いなさい」(笑)。
――あっ、そういうことですか! うわ、可愛い~。
高野:その「ごめんなさい」と言っている娘の姿が、もう可笑しくって。
子育てって、本当にしんどくて大変なことばかりなんだけど、その中で、吹き出しちゃうような、でもキラッと光ることを、とにかく描き続けていた感じです。
一生懸命になりすぎると、つい大切なことを見逃してしまうんですよね。
――そうだったんですね。ユーモアに変換するって、すごくいいなと思います。
高野:だから誰かを励まそうというよりも、「こんな見方もあるよ~」と伝える感じだったかなぁ。見方次第でつらくもなるし、楽しくもなるということを。
そのうち娘たち三人も大きくなって、とりあえず、みんな元気に育って……。本当に楽しい25年間でした。
――もちろん、語り尽くせないこともあると思いますが、高野さんご自身にとっても、人生の節目だったということでしょうか。
高野:そうなんです。子どもの成長を通して自分が描く役目は果たせたかなって、納得できていたんです。
有難いことに、若い方からご年配の方まで、幅広い読者の方から感想のお手紙も頂きました。そのおかげで「届いた」実感を持たせてもらえたんです。
これで、育児マンガ家として何かを伝える役目は、もう果たしたと思いました。筆を置いて、また新たな世界を探そうと思っていたところでした。
――えーっ、そうだったんですか!
高野:そんな時だったんです、「HSP」という言葉と出会ったのは。
納得の嵐! なんだ、HSPだったのね。
「HSP」って何かしら?
――弊社の担当編集者から、HSPチェックリストを受けられたときのことを『HSP!自分のトリセツ』の本に書かれていましたよね。その時、「HSP」という言葉はご存知でしたか?
高野:それが全然知らなくって! はじめて聞く言葉でした。「HSP」が海のものなのか、山のものなのか、それすらもわからないくらい。「Highly Sensitive Person」の略、「ひといちばい敏感な気質を持った人」のことだと教えてもらいました。
――そうだったんですね。実際にチェックリストをされてみて、どうでしたか?
高野:ほぼ全部当てはまりました(笑)。もう、びっくり!
正直にいうとね、最初は「また人を型にはめるような概念が出てきたなぁ」と思ったんです。「あなたO型っぽいよね」みたいな決めつけは好きじゃなくて。HSPもその一種かと思いました。
――わかります。でも違ったのですね。
高野:そうそう。これがきっかけで「HSPって何? もっと知りたい!」と思うようになりました。調べてみると、もう納得の嵐で。今まで感じていた違和感や疑問の理由がどんどん明らかになっていくの。「あ、これはこうだったんだ!」「あ、この考え方はHSPの特徴だったんだ!」って。
わたしだけが、サラリと受け流せない。
――「今まで感じていた違和感や疑問」。どんなことがあったのですか?
高野:たとえば、幼稚園の頃、劇でうさぎの役をやったことがあったんです。
衣装の白いタイツを穿かないといけなかったんだけど、チクチクする感触がイヤで、どう頑張っても穿けない。でも、他のみんなは気にせず穿いてるんですよね。劇が進まないって先生から怒られて、無理やり穿かされて、ずっと泣いていました(笑)。
――あぁ、そんなことがあったんですね。HSPの特徴の中で「五感が敏感」というのがあります。
高野:そう、まさに。触覚に限らず、蛍光灯が切れかけてチカチカしているのに誰より早く気づいたり(視覚)、椅子をひくキィーッて音がひといちばい苦手だったり(聴覚)。だけどそれを指摘しても、周りの人はみんな「あ、ほんとだね」で終わらせちゃうんです。
わたしだけが気にする。わたしだけがサラリと受け流せない。そんな違和感は、ずっとあったかな。
「厄介なわたし」の正体、明らかに。
――私も敏感な気質を持つ子どもだったので、とてもよくわかります。特に学校では、みんなと足並みを揃えるのに苦労しました。
高野:うんうん、そうよね。蛍光灯の眩しさも、先生の怒鳴り声も、給食や埃の匂いも、自分ではどうしようもない。だけど、それを大人に伝えると「ワガママ」と言われてしまう。
思えば、子どもの頃は怒られてばかりいたなぁ。「なんで他のみんなと同じことができないんだ!」って。学校で怒られ、家でも怒られ……。怒られていくうちに、わたしも自分が悪いんだと思うようになりました。
――そうだったんですね。
高野:だけど迷惑はかけたくないから、内心で「あれ?」と思うことがあっても、表には出さず我慢するようになりました。違和感は抱えたままで。
――あぁ、わかります。では、子どもの頃からずっと抱えていた違和感が、「HSP」という言葉に出会って腑に落ちたんですね。
高野:その通りです。五感以外の要素も当てはまることだらけでした。「人と会うのはすごく好きなのに、会ったあと、ドッと疲れて寝込んでしまう」とか、特別やさしいわけでもないのに「人から相談をされがち」とか(笑)。
――いやいや、そんなこと(笑)。
高野:それもこれもHSPの特性だったんですね。それぞれに感じていた違和感の正体がわかって、ミステリーが一つずつ解決していくような気持ちでした。とても爽快だったなぁ。
その敏感さは、病気でも欠点でもないよ。
――では、高野さんにとって「HSP」とは、迷宮入りしていた謎を解き明かすカギだったのですね。
高野:ふふ。おっしゃる通りです。
――高野さんは今、HSPマンガ家として、それを広める立場にいらっしゃいます。一番の原動力はなんでしょうか。
高野:「HSP」という言葉に出会えたことが、わたしの人生の中で本当に大きな出来事だったんです。もし知らなかったら、きっと自分のややこしさを持て余し続けていた。
しかもHSPって、5人に1人の割合で世界中にいるんです。
――5人に1人……少ないようで、意外と多いですね。
高野:そうなの。40人クラスだったら、うち8人は、ひといちばい敏感だということですよね?わたしと同じように、内心でグッと我慢していた子が、同じ教室にあと7人いたのかもしれない。「ワガママ」と言われて傷ついていた子が、あと7人いたのかもしれない。
そう考えた時、その7人に伝えたいと思いました。「あなたのその悩みは病気でもないし、欠点でもないよ。ただの持って生まれた性格だから、安心してね」って。
そう知ることができたら、きっと楽になるんじゃないかしら。
――全国あちこちにいる、同じHSPに伝えたいのですね。
高野:はい。育児マンガ家としての役目を終えたタイミングで、わたしは「HSP」に出会いました。「あぁ、次にすべきことはこれなんだ」って確信したの。
出会うべくして出会ったこの言葉を、今困っている人に伝えていきたい。そんな思いで、HSPマンガを描いています。
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今回は、高野さんに「HSPマンガを描く理由」を聞かせていただきました!
ずっと抱えられていた悩みがあったからこそ、高野さんのマンガは読者に寄り添っていて、温かいのですね。
第2弾ではさらに一歩踏み込み、高野さんの“HSP観”や、日々の暮らしの中でしている工夫をお聞きしています。次回もお楽しみに♪