ひと昔前と比べ、ずいぶんと語られるようになった「HSP(ひといちばい敏感な人)」。
マンガ家・高野優さんの描くHSPマンガは、とびきり明るく優しくて、つらさもコメディに変えてしまう力で異彩を放っています。
今回は、そんなマンガエッセイを描き続ける高野さんの“HSP観”に迫ります! きっと、あなたらしい「HSPのトリセツ」が見つかるに違いありません。
【聞き手:シュウ】
インタビュー第1弾記事はコチラ
インタビューのお相手(高野優さん)
HSPな自分を「まぁ、いっか!」と許せるマンガを。
――多くのメディアがHSPの「生きづらさ」を取り上げる中、高野さんのHSPマンガは明るくてパワフルですよね。困ったエピソードなども、「トホホ」な笑いに包んで描いてくださっているところが好きです。
高野優さん(以下、高野):ふふっ。そう言ってくださってありがとうございます。
読者の方が読んでホッとしたり、笑ったり、「そうなんだ!」って気づきを得られるような本でありたいと心掛けています。
わたし、「HSP」という言葉に出会って、すごくたくさんの書籍を読み漁ったんです。「もっともっと知りたい!」って夢中になっちゃって。高野:だけど、中にはちょっとネガティブな描かれ方をしているものもありますよね? 「HSPのせいで生きづらい、何もかもうまくいかない……」みたいな。
そんな内容に触れた時、わたしもつられて、「なんか、HSPってつらいな」と思ってしまったんです。
――内容に引っ張られて?
高野:はい。だけど実際は、HSPって悪いことだけじゃない。大変な面もあるけれど、楽しい面もある。もちろんね、深刻な悩みを抱えているHSPもいらっしゃると思います。だけど、気質って変えられませんよね? 変えられないなら、共存していくしかない。
共存していくなら、HSPのポジティブな部分に光を当てていきたい。
「どうしてHSPなんだろう…」と頭を抱えて嘆くよりは、「大変だけど、ま、いっか」と、自分を許せたほうが素敵じゃない?今度の新刊は、特にそんなことを意識しながら描きました。
――だから高野さんのHSP漫画は、あんなに明るくて楽しいのですね。
その気質、自分次第できっと生かせる。
HSPは才能じゃなくて、すごくありふれたもの。だから大切。
――楽しくもありつつ、HSP専門家・明橋大二先生が発信される確かな情報を元に、とても慎重にHSPを伝えられている印象があります。
高野:そうですね。先ほどお話ししたように、HSPのポジティブな部分をたくさん発信したいとは思っています。だけど、だからといって「HSPばんざい!」とは言えない。
良い面もあるけれど、実際のところ、敏感さが原因で困ってしまう時もある。それが現実だと思います。だから良いところばかりを誇張するのは、ちょっと違うのかなぁって。
――最近では、「HSPは特別な存在!」といった内容の記事も、よく目にするようになりましたよね。
高野:はい。だけどね、わたしのHSP観はそうではないんです。HSPは良くもないし、悪くもない。もっとフラットなものなんじゃないかと思うの。
たとえるなら……そう、左利きみたいなね。
――「左利き」ですか?
高野:はい。
左利きは10人に1人くらいだと言われているけれど、左利き自体は、良いものでも悪いものでもないですよね。ましてや、優れているわけでも、劣っているわけでもない。
高野:ただ、駅の改札を通る時にタッチしづらかったり、教室や職場に置いてあるハサミが扱いづらかったりすることはある。右利きが大多数を占める世界では、ちょっとしたストレスを感じやすい。
HSPもそれと同じだと思うんです。
――確かに! そう考えるとよくわかります。
高野:HSPは「天から授けられたすごい才能」ではないんです。5人に1人が持っている、ただの気質。HSPの特性を生かすも殺すも、自分次第なんじゃないでしょうか。
――きっと左利きの人は、普段の生活で不便を感じることもあれば、左利きだからこそ、スポーツなどで活躍できることもあるかと思います。
高野:そうそう。HSPもそれと同じで、受け取り方によって、良いものにも悪いものにもなり得ると思うんです。
……「HSPは素晴らしい!」って断言したほうが耳ざわりも良いし、売り上げも伸びるかもしれないんですけどね(笑)。
――(笑)。そうされないのも、高野さんらしいところだと感じました。
高野:いえいえ……うん、やっぱりHSPは特別なことではなく、ありふれたこと。だからこそ、わたしは大事にしたいなぁって。
――素敵な考え方ですね。
原因がわかれば、解決に踏み出せる。
――「HSPを生かすも殺すも自分次第」と言われていましたが、そこをもう少し詳しくお聞きしたいです。
高野:はい、先ほど「右利きが前提の世界では、左利きはちょっとしたストレスを感じやすい」という話をしましたよね。
同じように、HSPの方も知らずにストレスを積み重ねている。正体不明の違和感をいつも背負っているんです。
でもそれが気質のせいだとわかったら、「じゃあこうしよう!」って解決に踏み出せると思うの。
――解決ですか!
高野:はい。たとえば、騒がしい音で疲れ果ててしまうようだったら、人混みを歩く時はイヤホンをしたり。高野:あるいは、お気に入りの匂いで落ち着けるなら、アロマを持ち歩いたりね。高野:そんな対策をするためにも、「自分が何をストレスに感じるのか。何をしたらリラックスできるのか」を知っておく必要があると思うんです。
そして、ストレスに思ったり、イライラしたりすることからは、少し距離を置く。
――イライラを「我慢する」のではなく、「原因を取り除いていく」という発想ですね?
高野:そうです! イライラしてしまうものは、もう仕方ないですからね。「HSPの自分」をよくよく理解した上で、コントロールできることに目を向けるほうが大切なんじゃないかしら。
相手にも自分にもやさしい「気持ちの落としどころ」
配慮を求めるのではなく、「わたし」が工夫を。
――「自分でコントロールしていく」というのは?
高野:前作でも描かせていただいたことなんですけどね、わたし、HSPをふりかざすつもりは全くなくて。
――前作『HSP!自分のトリセツ』では、「HSPは印籠じゃない」とおっしゃっていましたね。印象的でした。高野:よく、車に「BABY IN CAR」というステッカーが貼られていることがありますよね。「赤ちゃんが乗っているので、気をつけてください」「赤ちゃんが乗っているので、配慮をお願いします」という意味で。
HSPの場合、それとは逆かなって思うんです。
――逆というと?
高野:「わたしはHSPなので気をつけて接してくださいね」じゃなくて、「わたしはHSPだから、自分自身が気をつけよう」。そういう考え方でありたいんです。自分を正しく知って、自分の行動を変えていく感じかな。
――あぁ、よくわかりました! 「わたしはHSPです」というのは周りに知らせるためではなく、自分自身に言い聞かせるような?
高野:そうです! 相手に対して「配慮してください」と求めるのではなくてね。「わたしはHSPだからこうしよう」と考えて、行動を選んでいます。
LINEが苦手なHSP。考えすぎて疲れちゃうときは?
――具体的には、どんな工夫をされていますか?
高野:んー、たとえば、返ってきたLINEの返信がスタンプ一個の時って、つい深読みしてしまいませんか?
――--わかります! 「何かまずいこと言ったかな?」みたいな。
高野:そうそう。わたしもかなり考えすぎちゃうタイプだったんです。だけどHSPだと知った今では、そうやってクヨクヨ悩み出した時、「あ、今HSPが作動中なんだ!」と気がつけるようになりました。
そうすると、「相手はそこまで気にしてない、大丈夫!」って切り替えられるんです。
――まさしくご自身でコントロールされているんですね。
高野:そう考えられると、人付き合いはグッと楽になると思うんです。原因はHSPの気質。そうわかれば自分を責めることもないし、相手のことを深読みしすぎて、誤解しなくて済む。
自分にも相手にもおおらかになれる、気持ちの落としどころが見つけられるようになったかな。
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いかがでしたか?
相手にも、自分にもおおらかになれる、「まぁ、いっか」は素敵な合言葉だと思いました。
最後のインタビューでは、高野さんが「HSP」を広める先に目指す世界ついて、詳しくお聞きしています。「HSPが生きやすい世界」とは、一体どんな世界なのでしょうか? 次回もお楽しみに♪
インタビュー記事第1弾、第3弾はコチラ