もしうちの子、 境界知能だったら? 勉強が好きになるヒントをご紹介
今年の1月に、1万年堂ライフで「境界知能」の学習の進め方に関する記事を掲載したところ、「うちの子は勉強が苦手でなかなか進みません。何かよい方法があれば教えてもらえないでしょうか」というお声を多数いただきました。
物事を理解するのに時間がかかり、勉強が不得意になりがちな「境界知能」が、どのように工夫したら勉強が好きになるのでしょうか。今回も、塾講師歴30年の阿部順子先生にお聞きしました。(1万年堂ライフ編集部)
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「境界知能」って何?
「境界知能」とは、ⅠQが69以下の知的障害には該当しなくても、ⅠQ70~84で一定の支援が必要な人たちのことです。
境界知能について詳しくは下記をご覧ください。
子どもが「境界知能」かどうか調べる方法は、
診断の手続きは自治体によっても異なりますが、東京では各区に置かれた教育センターでWISC検査ができることがあります。
WISC検査とは「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQ(知能指数)を数値化する検査で、その子の「得意な部分と苦手な部分」から「その子にとってより良い支援の手がかりを得る」ことを目的として行う検査です。
この検査によってⅠQが計測でき、「境界知能」かどうかが判定できます。(IQが70~84であれば境界知能)
「境界知能」に合った学習の工夫とは?
「境界知能」は物事を理解したり覚えるのに時間がかかり、勉強が苦手になってしまうケースが多いです。
親御さんも何とか勉強嫌いを治したいと問題集を買って解かせても、あまり進まずについ叱ってしまいがち。子どもは余計に勉強がイヤになり、またそれを治そうと問題集を買って…、という悪循環に陥りやすいです。
では、どのように関わったら勉強好きになるのでしょうか。また、少なくとも勉強嫌いにならないためにどう工夫したらいいのでしょう。
なかなか思うようにいかない場合もありますが、一番大切なのは、本来勉強は楽しいもの、役に立つものという気持ちを子どもに持たせることです。
そのために家庭で簡単に実践できる方法を紹介しましょう。一つでも参考になれば幸いです。
これらは「境界知能」ではなくても、勉強が苦手なお子さんにもオススメです。
(1)勉強に取り組みやすい環境を整える
子どもが落ち着き、勉強に取り組みやすい環境であればあるほど、学習効果はぐんと上がります。
どんな環境であればやる気が出そうか、集中できそうかを子どもと話し合ってみるのもいいと思います。
勉強机にこだわる必要はありません。
過去に、勉強机でなくカフェスタイルだとやる気が出そうだと言った子がいました。
お母さんは要望に応えて、できる範囲でカフェスタイルを実現しました。そうなると子どももやらないわけにはいきませんね。
また、学習への好奇心を育むための環境作りも工夫してみましょう。
部屋に地図や漢字表を貼ったり、地球儀を置いたり、トイレにことわざを書いた紙を貼るのもいいかもしれません。
漫画の知識本など、楽しく読めるものなら、子ども部屋にそっと置いておく。読書を好まないようであれば、メディアの力を借りましょう。
NHKの教育番組をはじめ、大自然や動物の不思議や理科実験の番組など、教科書通りでなくても知識欲をかき立てるもの、面白く見られるものもあります。
ただし、これらは焦りすぎず「興味をもったら儲けもの、ラッキー」といった、ゆったりとした気持ちで行うといいですね。
(2)ゲーム感覚を取り入れる
ゲーム感覚を取り入れることで、思わず夢中になって勉強がはかどることもあります。
「よーいドン!」のかけ声とともにストップウォッチで時間を計ったり、同じ漢字を3回書いてどの字がきれいか選んだり、楽しく取り組める工夫をしてみましょう。
また、「算数鬼ごっこ」もオススメです。算数の問題を親子で競争して解いていきます。
ハンディーを考慮して子どもが先に進め、10分後に親がオニになって追いかけます。スピードと正解を争うのでスリル満点!ただ、子どもがやりたいときのみにしてくださいね。
(3)生活の中で学ばせる
椅子にちゃんと座って机に向かうことだけが勉強ではありません。生活のなかで学ばせるのもいいでしょう。
①お風呂に入りながら
子どもが低学年なら、一緒にお風呂に入りリラックスし、タイル壁に貼れるアルファベットのポスターや日本地図などを見ながら、クイズを出し合うのはいかがでしょうか。
②お菓子作りをしながら
お菓子作りを手伝う子どもなら、材料を倍にした時の重さを暗算させたり、できたパンケーキを何等分かに分けて分数を理解させたり、数字を身近に感じるような工夫もできますね。
③買物をしながら
一緒に買い物に行った時、「500円でこの牛乳とヨーグルトを買ったらいくら?残ったお金でおやつを買っていいわよ」と言えば、自然に残金を計算するでしょう。
牛乳パックを見せて「これが1リットル、1000ミリリットルと同じだよ。㎏に直すとどうなるかな」など、質問すると勉強する意欲につながることもあります。
このように生活のなかで、さりげなく学ばせる工夫を、無理のない範囲でするといいですね。
ちょっとしたことなのですが、子どものやる気は「ちょっとしたこと」で大きく左右されます。
親の小さな工夫一つで、勉強のな苦手な「境界知能」であっても、スムーズに学習が進みやすくなるでしょう。
将来が心配な親御さんへ
今回は「境界知能」が勉強を好きになるヒントをお話してきました。
しかし、よかれと思って工夫をこらしても、うまくいかないときもあります。いや、うまくいかないことが、ほとんどかもしれません。
そうすると「この先、中学、高校と、この子はどうなってしまうのだろう……」と将来を心配し、頭を抱える親御さんも少なくないでしょう。
しかし多くのお子さんに携わっている経験からいえることは、中学や高校受験においては、さまざまなレベルの学校があるので、進学ができないということはありません。
「境界知能」であっても、比較的暗記力があったり、読解力があったり、計算ができたりとできることは各々異なります。
現在、多くの高校ではオンラインで授業を受けられたり、英語・数学・国語などの基礎教科以外の特殊なこと(美容、料理、芸術・情報など)が学べたり、多種多様な学び方があります。
生きる道は1本の枝ではなく、幾重にも分かれた枝葉のごとく種々あります。
親が心の視野を広げることで子どもの可能性も広がります。
私の教え子の中でも、勉強が苦手でも充実した人生を歩んでいる例はたくさんあります。一つご紹介したいと思います。
自分のやりたいことをみつけたKさん
Kさんは「境界知能」で、小学生の頃から勉強が苦手です。
お母さんは、何とかKさんの勉強キライを直そうと厳しくしつけていました。
しかし、その反動でいつも表情が暗くつらそうなKさんの未来を案じ、中学校からは負担にならない程度のアドバイスに留め、温かく見守ることにしました。
Kさんは余裕を持って過ごすことで好きなことが見つけられるよう、高校は学力レベルのやさしい学校を選びました。
ただ、心から夢中になれるものは3年間見つかりませんでした。
やがて高校を卒業、地元のスーパーに就職するも、覚える知識や仕事の量も多く、やりがいをあまり感じられません。
そんなKさんに転機が訪れました。ひょんなことから高校時代の友人と再会したのです。
性格もよく似ていて波長も合い、定期的にカフェで会話をするようになりました。
やがて、せっかくお茶をするのであれば、居心地のよい素敵なカフェがいいよね、と街中のカフェを細かく調べるようになったのです。
半年もすると、Kさんはカフェの魅力にすっかりとりつかれたようでした。
そのうち、お客として通うだけでは物足りなく、カフェで働いてみたいという気持ちが強くなりました。
そして23歳の時、スーパーを辞め、カフェでアルバイトをすることになったのです。
気に入ったカフェで、サンドイッチやビスケットを作りながら、接客を楽しむ毎日。
さらに週末はおしゃれなカフェを巡り、新たな発見があれば積極的にお店に提案しました。
プライベートも充実し、仕事にもやりがいを見出し、表情もパッと晴れたKさん。将来は自分のカフェを持つことが夢になったのです。
Kさんのお母さんは、そんな夢をイキイキと語る娘の姿に驚きながら、嬉しさで涙があふれたということでした。
「境界知能」は複雑な仕事には向いていなくても、自分に合った仕事が見つけられると道は開けます。
学生時代に自分の生き方が見つかれば素晴らしいことですが、社会人になってからでもチャンスはいくらでもあります。
特に学童期のうちは、学力を重視しがちです。もちろん勉強はできるに越したことはありません。
しかし、学力以上に大切なものがあるのではないでしょうか。
勉強の苦手さに寄り添い、大人になった時の笑顔を想像して、やさしく長い目で成長を見守りたいものですね。
それが子どもの生きる力の芽を育て、自尊心の茎を伸ばし、やがて大きな花を咲かせるに違いありません。
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