「子どもはめちゃくちゃかわいいけど、子育てから逃げたくなるときがある」
「育休があけて仕事が始まって大変だけど、子どもと家の中で一日過ごすより、仕事に行ったほうが楽って思うことがある」
ある育児中の母親同士の会話です。 こんな会話を聞いたら、皆さんはどんなふうに思うでしょうか。
「あっ、私も同じことをよく思うけど、こんなことを言ったら“母親失格”と言われそうで口に出せなかった。同じ気持ちのママがいて、なんかスーッとしたわ」
という方もいれば、
「育児からの逃避で仕事をするのは、本末転倒では?」
「子どもに対する愛情が薄いんじゃない?」
という方など、賛否両論、様々な意見や考えが飛び交うことでしょう。
どちらが正解ということではないと思います。一人の中に、いろいろな思いや葛藤が出てくるのが子育てです。
育児の大変さは変わらなくても、心の向きは変えられる
どんなに愛情深い母親でも、子育ての過酷さゆえに、十分わが子と関われなかったとき、自分を責めたり、落ち込んだり、気力が失せてしまったりするのは当然のことと思います。
母親にのしかかる育児の大変さを、急に変えることは難しいかもしれません。
でも、子どもや自分自身を見つめる視点をちょっと変えたり、子どもにも自分にも優しくなれるきっかけを客観的にもらったりするだけで、心が明るく、前向きに元気になり、結果として、母子関係が好転する場合はたくさんあります。
この子もダメ、
母親もダメ、
ではなくて、
この子もけっこういいとこある、
私もけっこういい子育てしてる、
と思ってほしいのです。
そしてそれはきっと事実です。出典 明橋大二(2006).P78『子育てハッピーアドバイス2』1万年堂出版
子育てはブラック企業?365日休みなし、夜間業務あり
実は私自身、3人の子どもを育てながら、今日までフルタイムで仕事を続けてきた身です。
しかもその後、両親の看病や介護が続き、この歳になり、「やっと自分の時間……」と思っていた矢先に、次女、長女が出産。晴れて「ばーば」(「ばばー!」じゃありません)と呼ばれるようになり、老体にむち打って娘のサポートに駆り出され……という嬉しい悲鳴(?)の毎日を過ごしています。
「子育てはサバイバル!」
「生きるか死ぬかだ」
「子育てはブラック企業!」
(365日無休、給料なし、有給休暇なし、夜間業務あり)
これは、日々の育児にヘロヘロになった長女から仕入れた言葉です。
長女いわく、出産前は「女の子が生まれたら、ペアルックのかわいい服を着せて手をつないで町を歩く」という幻想に日々浸っていたそうです。
それが、出産後一週間で一気に崩れました。
すべてが子ども優先の生活。慢性の睡眠不足、一人でゆっくりトイレにも入れない。仕事を終えて帰り、がんばって作った食事も何が気に食わないのか、器ごと手で払いのけられる。子どもと一緒に泣きたくなるらしいのです。
過酷な子育ては母親の生気(正気?)を奪い取るといっても過言ではありません。
「~したほうがいい」という情報が、さらに親を追いつめる
子育てが充実して楽しくてしかたがない母親の話を聞くと、わが娘は根性がないのか?と、比較しなくもありません。
ですが、子育ての現実は、医療やリハビリや教科学習とは違い、結果が見えにくく、答えの導き方も、子どもの性格や家庭の状況によって千差万別のところがあります。
私は今の仕事で、障害のある乳幼児を抱えて日々奮闘しているお母さん方を支援する仕事をしています。
先日、一人のお母さんと廊下で立ち話をしていました。
私はつい偉そうに、「ママが幸せそうに笑っていれば、子どもも自分から寄ってきたり、言うことを聞いたりするようになると思いますよ!」とアドバイスしました。
そのとき、そのお母さんからこんなことを言われました。
「先生、夫が毎晩帰りが遅く、一日中、一人で二人の子どもの世話をしているんです。幸せそうな笑顔を子どもに向けることが、どんなに難しいかわかりますか?」
このときほど、自分の上から目線の発言を恥ずかしく思ったことはありませんでした。
本当にそうですよね。かつて私自身も、3人の幼い子どもの育児に悪戦苦闘し、時には涙をふきながら、毎日職場に通っていたとき……。春の満開の桜並木の下を通っても、香りも色彩も風のそよぎも、何も感じられなかったことをふっと思い出したのです。
「子どもと豊かに関わること」は理想だけれど、その前に、お母さんが無条件で笑顔になれるような、理解と支援が大事なのだと教えられました。
子育て真っ最中の皆さんへ、ぜひ伝えたいこと
一人一人の顔形が違うように、子育てのスタイルも十人十色だと思います。
人生で二度とない、かわいいかわいい乳幼児の時期のわが子と、できることなら豊かで幸せな毎日を過ごしたい思いは、皆一緒と思います。
現状は変わらなくても、心の持ち方一つで親の心が明るくなり、元気になれるよう、これからも本音トークで一緒に悩み考えたいと思っています。
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