5月5日は「こどもの日」。
今回は童心を思い出して、イソップ物語「ウサギとカメ」をご紹介します。
イソップ物語は、子ども向けのお話と思われていますが、実は、大人へ向けた、生き方のアドバイスが込められていたのです。
作者とされるイソップは、2500年ほど前の人で、ギリシャの奴隷であったといわれています。弱い立場にあった彼は、動物を使った例え話を作って、メッセージを発信していたのですね。
大人のための『イソップ物語』を、木村耕一さんのアレンジでどうぞ。
ウサギとカメ
ウサギとカメが、スタートラインに立ちました。
向こうの山まで、競走することになったのです。
ウサギは、笑っています。
「オレが、カメなんかに、負けるもんか」
カメは、泣きそうです。
「どうせ、ボクなんか……」
ひげの長いヤギが、小さな声で、カメを励ましました。
「自分のペースで走ればいいんだよ。
勝つことより、ゴールに到着することを、
目的にするんだよ」
「よーい、ドン!」
両者、勢いよく駆け出します。
ウサギが、途中で振り返ると、
カメは、まだ、ずっと、ずっと後ろにいました。
「遅い! 本当に、あいつは遅いな!
真剣に走るのがバカらしくなった」
ちょっとのつもりで横になったウサギは、
いつの間にか、グーグーと、
いびきをかいて寝てしまいます。
「こんな所で寝たら、風邪を引きますよ」
追いついたカメが、親切に言葉をかけると、
ウサギは、
「うるさいな! どれだけ寝たって、
おまえなんかに負けるもんか!」
と叫んで、また、グーグーと、いびきをかき始めます。
こんな高慢な相手は、敬遠したほうがいいのです。
カメは、自分の目的(ゴール)に向かって、
黙々と進んでいきました。
「う、冷たい!」
急に、大雨が降ってきたのです。
目を覚ましたウサギは、
「しまった! カメのやつ、もうあんな所まで行っているぞ」
少し慌てたものの、
「今からでも追い越せるさ。余裕、余裕!」
笑いながら、相手をバカにして、雨の中を走りだしました。
やがて、ウサギは川の手前で異変に気づきました。
ここに架かっていたはずの橋がないのです。
大雨で増水し、激流となり、流されてしまったのでしょう。
「なんで、こんな大事な時に……!」
災難は、いつでも突然、襲ってくるものです。
怒っても、嘆いても、どうしようもありません。
ウサギは、別の橋を探すことにしました。
一方、カメは大雨が降る前に橋を渡っていました。
ゆっくりと、堅実に、ゴールへ到着!
森の動物たちに、拍手で迎えられます。
ヤギは、長いひげをなでながら、こう言いました。
「よく頑張ったね。我々の一生も、
今日のレースと似ていると思わないかい……」
(『月刊なぜ生きる』 令和3年11月号「イソップ物語 人生にこんな場面ありませんか?」 文 木村耕一 絵 黒澤葵 より)
自分のペースで走ればいいんだ
木村耕一さん、ありがとうございました。
改めて読んでみると、子どもの頃には思わなかったことでも、大人になると感じることがありますね。
他人と比べずに「自分のペースで走ればいいんだ」は、年を重ねるごとに、深みが増すようです。