7月7日は、小暑(しょうしょ)。
暑い日に食べたくなるものといえば、そうめん、すいか、きゅうりやトマト、がっつり焼肉やカレーなど……、みなさんはいかがでしょうか。
さっぱりと、おろしそばや、おろしうどんもいいですね。
昔から親しまれている大根。こんな話が『徒然草』にありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
大根に功徳があるって、本当ですか?
(意訳)
こんな話が伝わっています。
九州に、何とかという役人がいました。
その男は、「大根こそ、すべての病気に効く薬だ」と信じて、毎朝、二本ずつ焼いて食べていたそうです。男は飽きずに、そんな習慣を、長い年月にわたって続けていました。
ある時、その役人の屋敷に守備兵が一人もいない時を狙って、敵が襲ってきたのです。屋敷を取り囲み、大勢の武士が斬り込んできました。
すると、突然、屋敷の奥から二人の武士が現れ、敵の侵入を防いでくれるではありませんか。彼ら二人が、命を惜しまずに戦ったので、敵は皆、逃げていってしまいました。
この屋敷の主は、不思議でなりません。目の前にいる二人の武士とは、これまで、一度も会ったことがないからです。
「私を、命懸けで助けてくださったあなた方は、一体、どなた様でしょうか」
と尋ねると、
「あなたが、永年、信頼して、毎朝、お食べになっている大根でございます」
と言って、すっと消えていったとか……。
これを、大根の功徳というのでしょうかね。
【原文】
筑紫(ちくし)に、なにがしの押領使(おうりょうし)などいうようなる者のありけるが、土大根(つちおおね)を、よろずにいみじき薬とて、朝ごとに二つずつ焼きて食いけること、年久しくなりぬ。
ある時、館の内に、人もなかりけるひまをはかりて、敵襲い来て、囲み攻めけるに、館の内に兵(つわもの)二人いできて、命を惜しまず戦いて、皆追い返してけり。(第68段)
(『月刊なぜ生きる』令和3年6月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト 黒澤葵 より)
──木村耕一さん、ありがとうございました。
それにしても、「大根が武士になって現れ、敵を追い払ってくれた……。こんな話、信じられないのですが……。
そうですね、兼好法師は、「世間で、まことしやかに語り伝えられていることは、うそばっかり」の実例として挙げたのでしょう。
八百屋が大根を宣伝するために作った話ならば、まだ笑って済まされます。
もしかしたら、大根を霊験あらたかな本尊として祭り上げている信者が、功徳の実例と称して創作した話かもしれません。
──あり得る話ですね。
「世間には、うそが多いことを知ったうえで、何を信じるか、よく考えてから行動したほうがいいですよ」という兼好法師のアドバイスです。
──今も昔も変わらず、いろいろな情報を受け取る私自身が、よく考えて行動することが大事なのですね。兼好さん、生きるヒントをありがとうございました。
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