今回のテーマは「利他」です。
最近は、ビジネス書などにも出てきたりするようになりました。
「利他の精神」「利他に生きる」など、しばしば目にすることがあります。
仏教では、「幸せに心豊かに生きてゆきたければ、利他に心がけなさい」と言われます。
笑顔の多い日々を送れるか、それとも顔をしかめるトラブルや問題の多い日々になるかは、利他に心がけるかどうかにかかっているのです。
ぜひ利他についてよく知ってもらえたらと思います。
「利他」とは、他人を幸せにすること
利他とは、「他を利する」という言葉です。
利とは喜びや幸せを意味しますから、自分以外の他の人を喜ばせる、幸せにする。
そういう行為や思いをいいます。
困っている人や助けを必要としている人があれば、手を貸したり、協力していきなさいと勧められるでしょう。
もちろん、人それぞれ、できることとできないことがありますので、誰でも彼でも助けることはできないかもしれません。
自分にできることを考えて、少しでも力になれるよう行動していくことが大切だと言われるのです。
「情けは人のためならず」本来の意味
「人のために協力ばかりしていては、自分の時間や体力やお金が減るだけで、苦労のし損じゃないか?」と思う方もあるでしょう。
では、本当にそうでしょうか?
昔から「情けは人の為ならず」という言葉があります。
現代では間違った使い方をされることが多い言葉の1つです。
「相手を助けたり、親切にするのはその人のためにならない。だから手を貸してはダメだ」という意味で使われることがあります。
これは本来、間違った使い方です。
「情け」とは相手を思いやる気持ちで、もともとは
「人に親切にすれば、相手のためだけでなく巡り巡って自分によい結果がもたらされるのだから、大いに思いやりの気持ちをもって接していきましょう」
という意味の言葉なのです。
今回のテーマの「利他」も「情け」と同じ意味です。
利他に心がけてゆきますと、相手の人も喜ぶだけでなく、巡り巡って自分にも善い結果となって返ってきます。
ですから、「利他に心がけていたら自分が損をしてしまう」などと考える必要はありません。
幸せになる人・不幸になる人の分かれ目
仏教では、「自利利他(じりりた)」ともいわれます。
利他に心がけると、自分にも利(喜び・幸せ)が返ってくる。
自分も他の人も喜び・幸せにあふれる道が自利利他です。
反対に他の人や周りのことを考えず、自分のことばかり考えているのを、仏教では「我利我利(がりがり)」といわれます。
「我が利益、我が利益」と書いて、自分の利益、自分の得ばかり考えていることです。
これでは決して幸せにはなれませんよと仏教では戒めています。
自利利他と我利我利の違いをよくあらわした仏教の説話があります。
昔、ある所に、地獄と極楽の見学に出掛けた男がいた。
最初に、地獄へ行ってみると、そこはちょうど昼食の時間であった。
食卓の両側には、罪人たちが、ずらりと並んでいる。
「地獄のことだから、きっと粗末な食事に違いない」
と思ってテーブルの上を見ると、なんと、豪華な料理が山盛りではないか。
それなのに、罪人たちは、皆、ガリガリにやせこけている。
「おかしいぞ」と思って、よく見ると、彼らの手には非常に長い箸が握られていた。
恐らく一メートル以上はあるだろう。
その長い箸を必死に動かして、ご馳走を自分の口へ入れようとするが、できるはずがない。
イライラして、怒りだす者もいる。
それどころか、隣の人が箸でつまんだ料理を奪おうとして、醜い争いが始まるのであった。
次に、男は、極楽へ向かった。
夕食の時間らしく、極楽に往生した人たちが、食卓に仲良く座っていた。
もちろん、料理は山海の珍味である。
「極楽の人は、さすがに皆、ふくよかで、肌もつややかだな」
と思いながら、ふと箸に目をやった。
なんと、それは地獄と同じように一メートル以上もあるではないか。
「いったい、地獄と極楽は、どこが違うのだろうか?」
男は、ますます分からなくなってしまった。
しかし、その疑問は、まもなく氷解した。
彼らは、長い箸でご馳走をはさむと、「どうぞ」と言って、自分の向こう側の人に食べさせ始めたのである。
さも満足そうな相手は、「ありがとうございました。今度は、お返ししますよ。あなたは、何がお好きですか」と、自分にも食べさせてくれる。
にこやかに会話が弾んで、実に楽しい食事風景であった。
男は、「なるほど、極楽へ行っている人は心掛けが違うわい」と言って感心したという。(『思いやりのこころ』より引用)
このように自分のことだけ考えていては喜びや幸せはやってこず、トラブルや災難の多い人生になってしまいますよ、と仏教では戒めています。
一方、利他に心がけてゆくと、自然と笑顔の輪が広がり、周りも自分も幸せになってゆけますよと教え勧められるのです。
幸せや笑顔が巡る仕組み
あるとんかつ屋さんが、お金がなくて困っている人のために無料でとんかつを提供するという試みをはじめました。
このお店で、過去に次のようなエピソードがあったそうです。
ある長距離トラックのドライバーがサイフをなくしてしまい、困ってこのお店を利用しました。
店主は事情を理解し、快く食事を提供したそうです。
すると後日、そのドライバーの仲間が家族と一緒に食べに来てくれたのです。
「仲間を助けてもらったお礼に」とのことでした。
店主は、「困った人を助けたいと思ってやっていることだけれど、結局はお店側も助けてもらっているから続けていける」とコメントされています。
まさに利他がまた自利を生み、自利利他で幸せや笑顔が巡っていると思います。
まとめ:まずは笑顔と優しい言葉から
とはいえ、「利他といっても、どうしたらいいのかわからない」という方もあるでしょう。
そんな人は、まず和顔愛語(わげんあいご)に心がけてみてはどうでしょうか?
和顔とは笑顔のこと、愛語とはやさしい言葉、相手をいたわる言葉です。
笑顔で相手を気づかう言葉がけをしていきましょうとすすめています。
利他の行動として、まずは和顔愛語に努めていけたら、自分も周りの人にも少しずつ幸せの輪が広がってゆくことでしょう。
今回ご紹介した書籍
これまでの連載はコチラ話題の古典、『歎異抄』
先の見えない今、「本当に大切なものって、一体何?」という誰もがぶつかる疑問にヒントをくれる古典として、『歎異抄』が注目を集めています。
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