日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #142

  1. 人生

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームラン

夏の高校野球が熱いです!
澄んだ打球の音、青い空に白球が飛んでゆく光景は、何度見てもスカッとさわやかな気持ちになります。野球といえば、大谷翔平選手。アメリカ大リーグでベーブ・ルース以来104年ぶりの「2ケタ勝利&2ケタ本塁打」の偉業を達成! スゴーイ、オオタニサン! 歴史的な瞬間に、居合わせた私たちも、スゴーイ感じがします。今回は、大谷選手の活躍で再び話題になっている、ベーブ・ルースのエピソードを木村耕一さんにお聞きしました。

──木村耕一さん、ベーブ・ルースは写真でしか見たことがないのですが、どんな人だったのでしょうか。

はい、ベーブ・ルースは、アメリカで、最も有名な野球選手の一人です。
1920年代に、ニューヨーク・ヤンキースで大活躍し、国民的英雄となりました。引退するまでに、通算714本のホームランを打ち、この世界記録は、その後39年間も破られることはなかったのですよ。

──すごい記録ですね。

ベーブ・ルースは、球場の外でも、子どもたちに夢を与え、元気づけたエピソードが数多く残っています。中でも有名なのは「約束のホームラン」です。

──約束のホームラン。どんなエピソードでしょうか。よろしくお願いします。

約束のホームラン

1926年、ヤンキースはアメリカン・リーグで優勝を果たしました。
ルースは、ニューヨークで、明日から始まるカージナルスとのワールドシリーズに備えていました。そこへ、見ず知らずの男性から1本の電話がかかってきたのです。原因不明の難病で苦しむ11歳の少年の父親からでした。

「息子のジョニーは、背中の病気で寝たきりになっています。医者から、もう手の尽くしようがないと言われています。病で苦しむ中、唯一の明かりは、ラジオであなたの活躍を聴くことです。あなたの新聞記事は、すべて切り取ってスクラップしている大ファンなのです。そんな息子に、サインボールを送ってやってもらえませんか」

とても無理だろうと思いつつ、わが子を元気づけたい一心で電話したのでした。

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームランの画像1

しかし、ルースは、
「では、今日の午後、ジョニーの所へ行きましょう」
と快く返事をしてくれました。

これには父親が驚きます。
ニューヨークから息子が入院しているニュージャージー州の病院までは片道3時間はかかるでしょう。しかも、明日から大事な試合があるのに……。

約束どおり、ルースは見舞いに来てくれました。

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームランの画像2

ジョニーには前もって何も告げていなかったので、病室のドアが開いた瞬間の驚き、喜びようは例えようがありません。
写真でしか見たことのないスーパースターが、今、自分に会いに来てくれているのです。しかも、バット、グラブ、ボールをプレゼントしてくれました。

「これで友達と野球ができるようになってね。1日も早く、自分の足で立てるようになることを願っているよ」
と励まし、
「何か、してほしいことはないかい」
と尋ねました。

すると、ジョニーは、小さな声で、
「ワールドシリーズで、僕のためにホームランを打ってください」
と言います。

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームランの画像3

ルースは、ジョニーの頭をなでながら、力強く答えました。

「よし、分かった。君のために特大のホームランを打ってやる。そのかわり、君も元気を出して、病気なんかに負けるんじゃないぞ。これは約束だ!」

翌日、ルースは、ジョニーとの約束を守って、ライトスタンドへホームランをたたき込みました。
ラジオに耳を傾けていたジョニーは、躍り上がらんばかりに喜びます。

「ルースは、僕との約束を守ってくれたんだ。今度は、僕が病気に勝たなくっちゃ」

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームランの画像4

これまで絶望感しかなかったジョニーの心に、希望がわいてきました。

ルースは、このワールドシリーズで4本ものホームランを打ちました。彼が打ったボールがスタンドへ飛び込み、ラジオから歓声が聞こえるたびに、ジョニーの体に力がみなぎってくるのが、そばで見ていても分かるくらいでした。

「よし、やるぞ!」と、心がポジティブに変わると、ジョニーは医師が驚くほどの快復ぶりを見せ始めます。次第に立って歩けるようになり、学校へも通えるようになりました。完全に病を克服したのです。

ベーブ・ルースは球場の外でも、子供たちに夢を与えていた 〜約束のホームランの画像5

優しい言葉、励ましの言葉には力があります。
相手に生きる勇気を与えるだけでなく、時には、命を救うほどの力を発揮するのです。

ベーブ・ルースが晩年に病床に伏すと、今度はジョニーが、かつての恩人を見舞ったといわれています。

(『新装版 思いやりのこころ』木村耕一編著、『マンガ 歴史人物に学ぶ 大人になるまでに身につけたい大切な心1』原作・監修:木村耕一 まんが:太田寿 より)

言葉には力がある

木村耕一さん、ありがとうございました。
SNSなどでの悪口や誹謗中傷に、心を痛めている人があります。
反対に、ベーブ・ルースのように、優しい言葉で、病を克服させてしまうこともあるんですね。
言葉には、力があるんだなと分かりました。
同じように口を動かすなら、優しい言葉を使って、自分も相手も明るくなりたいなと思います。
すてきなエピソードをありがとうございました。

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