今年の夏の暑さは特別ですね。
クーラーの設定温度を低くして眠ってしまい、風邪気味に……。冷たいものを飲みすぎて、夏バテに……。つい、後のことを考えずに失敗することってありませんか。
こんなイソップ物語の一話がありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
井戸へ飛び込んだヤギ
夏です。
太陽が、まぶしく輝いています。
野原を歩いているヤギは、喉が渇いてきました。
「どこかに、水がないかな……」
すると、大きな穴を見つけました。
古い井戸のようです。
そっと中をのぞいてみると……。
ありました。
清らかな水が、井戸の底にわいています。
しかも、一匹のキツネが、先に中へ入っているではありませんか。
ヤギは、話しかけます。
「キツネさん、そこの水は、おいしいの?」
キツネは急に頭の上から声がしたので、びっくりした様子です。
実は、キツネは、足を滑らせて井戸に落ちてしまい、困っていたのでした。
でも、とっさに悪知恵が浮かんだようです。
すぐ、ニコニコ笑って、ヤギに優しく語りかけます。
「そりゃ、もちろんだとも! 冷たくて、おいしい水だよ。夏の暑い日には、ここは最高の場所なんだ。ねえ、君も来ないかい。一緒に飲もうよ。さあ、おいで!」
ヤギは、もう我慢できません。
「早く、水を飲みたい!」と思って、井戸の底へ跳び下りたのです。
キツネが言ったとおりでした。
井戸の水は、とてもおいしくて、ヤギは満足しました。
でも、冷たい水が喉を潤す快感は、しばらくの間のことでした。
いつまでも飲んでいるわけにはいきません。
「さて、もう家へ帰らなくっちゃ」
井戸の底から上を見上げたヤギは、急に、心細くなりました。
なぜかというと、自分の力では、この井戸から出られないことに気づいたのです。
ヤギは、泣きそうになりました。
すると、横にいたキツネが、ぽんと手をたたいて、
「そうだ! 君と僕が、一緒に助かる方法を思いついたぞ!」
と叫びました。
「えっ、どんな?」
「まず、君が前足を井戸の壁にかけ、背伸びをしてくれないか。君の体を土台にして、僕が壁をよじ登ってみるよ。そうすれば、きっと外へ出ることができるはずだ。僕が先に出たら、君を引っ張り上げてあげるよ」
「それはいい考えだね」
ヤギは喜んで協力しました。
キツネは、ヤギの背中から頭、そして角へ登って、ようやく外へ出ることに成功しました。
でも、キツネには、ヤギを引き上げる力なんてありません。
「君は、なんてバカなんだ。後のことも考えずに、井戸へ飛び込むなんて……。
たとえ、おいしい水を飲めても、井戸から出られなかったら、どうなると思う? 死ぬしかないじゃないか」
キツネは、こう言い捨てて、どこかへ去っていったのです。
井戸の底に残されたヤギは、やがて哀れな最期を迎えました。
イソップは、
「今、自分がやろうとすることが、どういう結果を招くか、よく考えてから行動しなさいよ」
と教えているのです。
(『月刊なぜ生きる』 令和2年8月号「イソップ物語 人生にこんな場面ありませんか?」 文 木村耕一 絵 黒澤葵 より)
よく考えてから行動
木村耕一さん、ありがとうございました。
ヤギと同じ失敗をしているな、と共感してしまいました。
キツネのように、うまくおだててくる人もありますが、そんな時こそ調子に乗らずに、冷静に、よく考えてから行動するのが、失敗しない秘訣だなと思いました。
2500年前からのイソップのアドバイス、勉強になりました!