8月27日に、新刊『HSP! 最高のトリセツ』の発刊記念オンラインイベントを開催しました。
講師は、著者の高野優さん(HSPマンガ家)。イラストを描きながらトークをする特殊な講演スタイルが大人気で、全国各地からの講演依頼が絶えません。
「わたし、実はイラストを描きながら話すほうが落ち着くんです」
そう語る優さん。オンラインでの講演に、実はとても緊張しているとか。
本記事では、そんな「イラスト×トークライブ」の様子を、ダイジェストで特別公開!
結局、少数派(5人に1人)ならではの「生きづらさ」はどうしたらいいの?
尽きない悩みの「出口」が見つかるように。
はじめまして。マンガ家の高野優です。
わたしはHSP(ひといちばい敏感な人)で、HSS(刺激探究型)の気質もあわせ持っています。
本日は「『生きづらい』の呪いを解くユーモアの魔法」をテーマに、お話をさせていただきます。
今回の新刊『HSP!最高のトリセツ』は、わたしが描くHSPマンガとしては、2作目なんです。
1作目では、わたしと「HSP」という言葉との出会いを描きました。「長年抱えてきた悩みは、あれもこれも全部、HSPの気質が原因だったんだ!」と、驚きと納得の嵐で。うれしいことに、たくさんの人が手に取ってくださいました。
そんなヘレン・ケラーのようなわたしを描いたのが1作目だとしたら、2作目のわたしはサリヴァン先生です。
「わたしはHSPだから生きにくい。どうしよう」って頭を抱えるんじゃなくて、「HSPだからこうしよう」と考えていきたい。伝えていきたい。
生きづらさに悩むHSPにとっての、「出口」が見つかる本になればと思って描きました。
「出口」を見つけるヒントとして、今日はみなさんに3つ、お伝えしたいことがあります。
- 「じゃあどうしよう」
- 「ユーモアに変換する」
- 「そもそも相手は気にしてない」
この3つはもう、HSPの標語にしちゃいたいくらい!(笑) ひとつずつ話していきたいと思います。
①「じゃあどうしよう」で日常をデザインしませんか?
……オンラインイベントって緊張しちゃいますね!
わたし、イラストを描きながらお話するほうが落ち着くんです。なので、今日も絵を描いて、皆さんにその手元を見てもらいながら、お話をしますね。
HSPは「左利き」のようにありふれた資質
いろいろな考え方はあると思いますが、わたし自身はHSPを「特別な才能の持ち主」とは思わないんです。かといって周りから卑下されたり、自分自身がうなだれたりするものでもない。もっとありふれていてフラットな資質。
たとえるなら、HSPは左利きのようなものだと思っています。
左利きは10人に1人くらいの少数派です。だけど、左利きの方は「わたしはなんで左利きなんだ〜」って呪ったり、「左利きだから生きづらい」と涙を流したりはしませんよね。わたしには3人の娘がいるのですが、三女が左利きなんです。もちろん左利きを嘆いたりはしていなくて、むしろずっと続けていたサッカーでは「左右どっちでも、ボールを自由自在にコントロールできることが自慢」と言ってたこともありました。
ただそうは言っても、呪うとか嘆く以前に、面倒なことは日常にたくさんあったらしいんです。
たとえば、三女は小さい頃から料理することが好きでした。いろいろ切ったり混ぜたりしてくれるのを、わたしはヒヤヒヤしながら見守っていて(笑)。ある時、娘の手元を見ていて「あっ」と思い、左利き用の包丁を渡してみたんです。そうしたらもうね、娘の表情がパーッと明るくなったんです。「なにこれ、すっごく使いやすい!」って。それを聞いて、わたし(右利き)が左利き用包丁を使ってみると、これがものすごく使いづらい。滑ってしまう感じ?
ほかにも駅の改札を通る時にタッチがしづらかったり、給食を配膳するためのおたまが使いづらかったり……右利きが多数派の世の中で、少数派の左利きはちょっとしたストレスを感じやすいんです。
そんな時に考えたいのが、ひとつめのキーワード「じゃあどうしよう」。左利きの三女にとっての答えはシンプルで、「左利き用グッズを買う」でした。HSPも同じように考えるといいと思っています。つまり自分で「日常をデザインしていく」ということです。
では「日常をデザインする」とは、どういうことでしょう。
苦手な音には、ノイズキャンセリングイヤホンを。
わたしの場合、子どもの頃から五感全般が敏感で、特に聴覚は悩みの種でした。
新刊の中にも描いたんですが、新幹線やカフェとかで聞こえるパソコンのタイピング音とかが、とにかく気になるんですね。
一番気になるのは、エンターキーを「タァンッ!」と打つ音! そうされた日には、その人がいない間にこっそりエンターキーだけ抜こうかと思うくらい(笑)。
だけどそれを気にする人って、自分以外にはあまりいないんです。我慢したところで苦手なものは苦手だし、「なんでこんなに心が狭いんだろう、神経質なんだろう」って自分を責めるのもつらいですよね。
それで「じゃあどうしよう」と考えた時に、わたしの答えはノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを買うことでした。それにて一件落着。今では、新幹線移動も楽しくやっています。
そんなふうに、自分で考えて答えを見つけていくのがいいと思うんです。その時に見つけた答えは、自分の武器になります。
今って何かと「HSP=生きづらい」っていう風潮が強まっていますよね。だけど長い人生を俯瞰した時に、「あぁ、わたしはなんて生きづらいんだ!」って膝を抱えて生きるよりは、自分で舵をとり鼻歌を歌って歩いていく人生のほうが、絶対にいいと思いませんか?
だからこその、「じゃあどうしよう」です。
②ユーモアに変換して、「悩み」すら「笑い」に。
次のキーワードは「ユーモアに変換」です。「じゃあどうしよう」では解決しきれない時、この考え方ってすごく大事なことだと思うんです。子育ての話にも通じます。
25年前になるかな、長女の離乳食を作っていた頃の話です。
レシピを一生懸命勉強して、何時間もかけて作って、やっとの思いで作った離乳食を娘に食べさせました。「はい」ってスプーンを差し出しますよね。するとモグモグ食べるんですが、しばらくすると必ず「ベェ〜」と吐き出してしまうんです。今思えばね、たかがそのくらいでって思うんですが、当時は初の子育てというのもあって、ラガーマンばりに肩の力が入っていたものだから、「何がいけなかったんだろう」ってすごく悩んだんです。来る日も来る日も「ベェ〜」と吐き出されて、その度に落ち込んで。
そんなある時。子育てに疲れていたんでしょうね。いつものように離乳食を吐き出す娘の様子が、ふとね、駅の券売機に似てるなって思ったんです(笑)。そう思った瞬間、悩んでいた気持ちがポンと弾けて、笑ってしまいました。それからというもの、吐き出されても「あぁ、今日も券売機絶好調!」と思えるようになったんです。
これって、たぶんユーモアですよね。
深刻に「あぁ、なんで〜〜」と悩むんじゃなくて、「まぁいっか」って言葉が思わず口からこぼれる。
どうにもならない悩みを「笑い」に変えてしまう発想って、すごく大事だと思います。
③悩む前に思い出して!「そもそも相手は気にしてない」。
最後のキーワードです。「そもそも相手は気にしてない」。
共感してくれる方もいるかもしれませんが、「HSP」という言葉を知る前、わたしはLINEの番人でした。
気心知れている相手とのLINEであれば平気なんですが、子どもの学校の関係で入らないといけないLINEグループとかが、とにかく苦手で。みなさんもそんなことはありませんか?
たとえば誰かのコメントで会話がスパッと切れたら、「返信しなきゃ!」と思ったり。逆に自分のLINEで会話が終わってしまうと、「何かまずいこと言ったかな」って気になったりですね。
たかがLINE、されどLINEで、振り回されてヘトヘトになってしまっていました。LINE以外でいうと、友だちとごはんに行った帰り道には、ひとり反省会が始まるんですよね。「あの言い方で伝わってたかな〜」とかクヨクヨしちゃったり……ありませんか?(笑)
でもHSPを知ってからは、先ほどのキーワード「そもそも相手は気にしてない」を念頭に置くようになりました。相手が気にしていないなら、わたしも気にする必要はない。
それに、些細な言い方で誤解を招くような、そんな薄い付き合いはしていないって自信を持つようにしたんです。
HSPのみなさんは、日常の中でヒヤヒヤする場面も多いかと思います。そんな時はぜひ、「そもそも相手は気にしてない」を思い出してください。ずいぶん楽になると思います。わたしがそうでした。
参加者の悩みに抽選でアンサー!質問・相談コーナー
参加者のみなさんが寄せてくださった質問・相談メッセージが、この抽選箱に入っています。たくさんありがとうございます! 時間の許す限り、お答えしていきたいと思います。
Q1.「人と仲良くなりたいけれど、煩わしさが先立ちます……」
もしかしたら、前に煩わしい出来事があったからこそ、今行動を起こせないのかもしれませんよね。
だけど他人に興味が持てないことも、誰も好きになれないことも、わたしはそれはそれで全然へこむことではないと思います。
「ママ友」ってその言葉のとおり、単なるママ同士。家が近くて、子どもの通う学校が同じだけのお付き合いだと思うんです。
ママ友から時を経て、自然に「ママ」という言葉が取れたら、それはもう最強の戦友になるかもしれない。だけど今は「同じ地域に住む、情報交換をする相手」くらいの認識でいるほうが、きっと気が楽だと思います。
職場の方もしかりですね。最初から「親友になろう」と思うときっと空回りしちゃうと思うんです。知り合いからはじめて、囲碁のようにちょっとずつ、距離を詰めていくのがいいんじゃないかなぁ。
ただね、長く生きていく上で思うのが、「人は好きな物や好きな人が多いほど、豊かな時間が増える」ということです。
今だってひねくれているなんてことは、全然ないと思います。だけど、好きなものが増えたらもっと素敵ですね。
そもそも、こうやって「どうしたらいいでしょう」って相談できている時点で、あなたはもう十分素直で素敵な人だと思います。メッセージありがとうございました。
Q2.「育児を周りと比べ、落ち込んでしまいます。。」
「こんな私」なんてこと、まずないですよ。
お子さんのことで試行錯誤してきたということなら、それはもう十分向き合ってきた証だと思います。
もはやわたしの口癖になっているんですが、「じゃあどうしよう」。
お子さんに対し、今までは真正面から一生懸命に向き合ってきたと思うんですが、これからは横から横目でチラッと見るくらいにするのはどうでしょうか。
いつも思うんですけれど、常に一生懸命でいようとすると、親も子も息切れしちゃうんです。周りと比べる必要はまったくないし、そんな時間はもったいないですよ。
とらわれちゃう時があるのなら、たとえばですよ、その時間を使ってコンビニに行きましょう。ちょっと高いお菓子を買って、ていねいにお茶を淹れて、ゆっくり味わう、そんな時間を過ごしませんか? そのほうがきっと、あなたにとって価値のある時間になると思います。
お便りありがとうございました。
(※ほかの相談メッセージ&アンサーは、近日中に、別記事にて公開いたします。お楽しみに!)
【おわりに】「HSPのせいで生きづらい!」と決めつけてしまう前に。
今回ですね、HSPマンガエッセイの2作目を描く上で、どうしても伝えたかったことがあるんです。そのお話をさせてください。
ある県で講演会をさせていただいた後に、ひとりのお客様が1作目『HSP!自分のトリセツ』を持って、話しかけにきてくれたんです。
こんなことを言ってくれました。
優さん、ありがとうございます!
わたし実は、外に出るのがものすごく怖くて。みんなが自分を見ているような気がして怖い。
あと、日光に当たると肌が痛くなったりしちゃう。友だちともうまくコミュニケーションが取れなくて、子どもにもひどい口調で怒ってしまうことがある。仕事もなかなか続きませんでした。
だけど、あれもこれも全部HSPだからなんだって気づいて、ホッとしました。ありがとうございました!
会いに来てくれたことは、本当にうれしかったんです。だけど……イラストのほうが伝えやすいかな。「ありがとうございます」って気持ちもあるけれど、「ちょっと待って〜!」って止めたい気持ちもある。
何が言いたいかというと、その方が言う「みんなが見ている気がする」とか「日光で肌が痛い」とか「人とうまくいかない」っていうのは、HSPのせいとは限らない。
HSPの気質がベースになっているかもしれないけれど、すべてをそのせいにして、HSPが隠れ蓑になってしまうのは、とても怖いことだと思うの。
場合によっては、適切な場所で適切な治療・カウンセリングを受けることが、その方のためになると思うんですね。
そこで今回の新刊には、編集さんに提案して描かせてもらったページがあるんです。それが、「HSPと感覚過敏の違い」「ADHDとの違い」「アスペルガーとの違い」。
この3点を専門家医の明橋大二先生に教えてもらいながら、正確に、わかりやすく描きました。HSPを題材にしたマンガエッセイを描いているわたしには、その責任があると思っています。「HSP=生きづらい」とは限りません。「じゃあどうしよう」「ユーモアに変換」「そもそも相手は気にしてない」——今日ご紹介した3つのキーワードで、いくらでも自分らしく、楽しく生きていけると思います。
一方で、HSPのベースはありつつも、別の原因があってストレスを感じているのかもしれない。ご自身に対しても、あるいはお子さんや身のまわりの方に対しても、そんな可能性があることを頭の片隅に置いておいてくれたらと思います。
今日は楽しんでいただけたでしょうか。少しでもみなさんが心地良く、自分らしく生きていく助けになればうれしいです。
ありがとうございました。
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