10月27日は、読書の日。そして読書週間のスタートです。
みなさんは、どんな本を読まれますか。
本を読むと、自分では思いつかない別の視点が得られて、面白いなと思うことがあります。
子どもの頃に親しんだ、イソップ物語の「田舎のネズミと、町のネズミ」は、改めて読んでみると、また違った味わいになりました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
田舎のネズミと、町のネズミ
田舎のネズミが、あくびをしています。
毎日、退屈でしかたがないのです。
そこへ、町のネズミが遊びに来ました。
喜んだ田舎のネズミは、心を込めて食事を準備しました。
ダイコン、ジャガイモ、大麦、小麦……。
でも、町のネズミは不満そうです。
「僕らの楽しみは、おいしい物を食べることだよ。君は、毎日、こんな物しか食べていないのか。なんて不幸なんだ……」
と、ズケズケと言います。
田舎のネズミは、しょんぼりしてしまいました。
ちょっと言いすぎたかな、と思った町のネズミは、
「今度は、僕の家へ来てくれ。ごちそうしてあげるから」
と誘います。
2匹のネズミは、町へ着くと、とても豪華な家へ入っていきました。
テーブルの上には、パン、チーズ、肉、果物、ケーキ、はちみつ……と、おいしそうな食べ物が、ズラリと並んでいます。
田舎のネズミは、びっくりぎょうてん!
「毎日、こんな食事ができるなんて、君は、幸せだな。それに比べ、貧しい田舎に生まれた僕は、なんて不幸なんだろう」
とつぶやきます。
「さあ、一緒に食べよう」
と、テーブルの上に登った時でした。
突然、後ろのドアが開いて、人間が入ってきたのです。
「あっ! 捕まったら殺されるぞ!」
2匹は、肝をつぶして、壁の穴へ飛び込みました。
田舎のネズミは、ガタガタ震えています。
「誰もいなくなったよ。さあ、おいしいチーズを食べよう!」
町のネズミに励まされて、もう一度、テーブルに登ろうとすると……。
ガチャッ!
ドアが開く音がします。
さっきよりも多くの人間が入ってきました。
2匹は、また、壁の穴へ逃げ込みます。
田舎のネズミは、ぺたりと座り込んでしまいました。
「ああ、怖かった。寿命が縮まったよ……」
そして、
「さようなら、僕は、これで田舎へ帰るよ」
と言いだします。
「どうしたんだ。まだ、何も食べていないじゃないか」
「僕は、おいしい物を、たくさん食べることができれば、幸せになれるって思っていた。だけど、そうじゃないかもしれないね……」
「何を言っているの? 理解できないな」
「まあ、いいさ。君は、ぜいたくな食べ物に、危険と恐怖を添えて、腹いっぱい食べればいいよ。僕は、もう一度、考えてみたいんだ」
引き留める友を振り切って、田舎のネズミは帰っていきました。
(『月刊なぜ生きる』 令和3年9月号「イソップ物語 人生にこんな場面ありませんか?」 文 木村耕一 絵 黒澤葵 より)
幸せになれると思って
木村耕一さん、ありがとうございました。
田舎のネズミの「僕は、おいしい物を、たくさん食べることができれば、幸せになれるって思っていた。だけど、そうじゃないかもしれないね……」に、考えさせられました。
幸せになりたくて、いろいろなものを求めていますが、欲しいものを手に入れたら、幸せになれるのかな……。
2500年前のイソップも、同じ疑問を感じていたのでしょうか。
イソップのメッセージは、今も心に響いてきます。