日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #151

  1. 人生

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……

10月27日は、読書の日。そして読書週間のスタートです。
みなさんは、どんな本を読まれますか。
本を読むと、自分では思いつかない別の視点が得られて、面白いなと思うことがあります。
子どもの頃に親しんだ、イソップ物語「田舎のネズミと、町のネズミ」は、改めて読んでみると、また違った味わいになりました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

田舎のネズミと、町のネズミ

田舎のネズミが、あくびをしています。
毎日、退屈でしかたがないのです。
そこへ、町のネズミが遊びに来ました。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像1

喜んだ田舎のネズミは、心を込めて食事を準備しました。
ダイコン、ジャガイモ、大麦、小麦……。
でも、町のネズミは不満そうです。

僕らの楽しみは、おいしい物を食べることだよ。君は、毎日、こんな物しか食べていないのか。なんて不幸なんだ……」
と、ズケズケと言います。

田舎のネズミは、しょんぼりしてしまいました。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像2

ちょっと言いすぎたかな、と思った町のネズミは、
「今度は、僕の家へ来てくれ。ごちそうしてあげるから」
と誘います。

2匹のネズミは、町へ着くと、とても豪華な家へ入っていきました。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像3

テーブルの上には、パン、チーズ、肉、果物、ケーキ、はちみつ……と、おいしそうな食べ物が、ズラリと並んでいます。
田舎のネズミは、びっくりぎょうてん!

「毎日、こんな食事ができるなんて、君は、幸せだな。それに比べ、貧しい田舎に生まれた僕は、なんて不幸なんだろう」
とつぶやきます。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像4

「さあ、一緒に食べよう」
と、テーブルの上に登った時でした。

突然、後ろのドアが開いて、人間が入ってきたのです。

「あっ! 捕まったら殺されるぞ!」

2匹は、肝をつぶして、壁の穴へ飛び込みました。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像5

田舎のネズミは、ガタガタ震えています。

「誰もいなくなったよ。さあ、おいしいチーズを食べよう!」

町のネズミに励まされて、もう一度、テーブルに登ろうとすると……。

ガチャッ!

ドアが開く音がします。

さっきよりも多くの人間が入ってきました。
2匹は、また、壁の穴へ逃げ込みます。

田舎のネズミは、ぺたりと座り込んでしまいました。

「ああ、怖かった。寿命が縮まったよ……」

そして、

「さようなら、僕は、これで田舎へ帰るよ」

と言いだします。

「どうしたんだ。まだ、何も食べていないじゃないか」

「僕は、おいしい物を、たくさん食べることができれば、幸せになれるって思っていた。だけど、そうじゃないかもしれないね……」

「何を言っているの? 理解できないな」

「まあ、いいさ。君は、ぜいたくな食べ物に、危険と恐怖を添えて、腹いっぱい食べればいいよ。僕は、もう一度、考えてみたいんだ」

引き留める友を振り切って、田舎のネズミは帰っていきました。

【イソップ物語】田舎のネズミと、町のネズミ〜幸せって、なんだろう……の画像6

(『月刊なぜ生きる』 令和3年9月号「イソップ物語 人生にこんな場面ありませんか?」 文 木村耕一 絵 黒澤葵 より)

幸せになれると思って

木村耕一さん、ありがとうございました。

田舎のネズミの「僕は、おいしい物を、たくさん食べることができれば、幸せになれるって思っていた。だけど、そうじゃないかもしれないね……」に、考えさせられました。

幸せになりたくて、いろいろなものを求めていますが、欲しいものを手に入れたら、幸せになれるのかな……。

2500年前のイソップも、同じ疑問を感じていたのでしょうか。
イソップのメッセージは、今も心に響いてきます。

意訳で楽しむ古典シリーズ 記事一覧はこちら