1. 人生

【百人一首】千年前の恋の歌

出会いの日

いつもの散歩道、公園に咲く、紅白の梅の花を見つけて、春の訪れを感じました。
春は出会いの季節ですね。

3月2日は、英語の「meets」ミー(3)ツ(2)と読む語呂合わせから、「出会いの日」なのだそうです。
思えば、いろいろな人との出会いによって、人生が変わったり、影響を受けたりしますよね。皆さんには、どんな出会いがありましたか。

今回は、『百人一首』の恋の歌を木村耕一さんの意訳でどうぞ。

恋心を歌う3首

陸奥(みちのく)の しのぶもじずり 誰ゆえに
乱れそめにし われならなくに
源融(みなもとのとおる)

(意訳)
東北地方の名産に、乱れ模様に染めた「しのぶもじずり」という布があります。ちょうど今、私の心も、その布の模様のように乱れに乱れています。
いったい、誰のせいで乱れ始めたのでしょうか。すべて、あなたのせいなのですよ。それなのに、なぜあなたは、つれない態度をとるのでしょう。私の恋心は、ますます激しく乱れていきます……。

──映画や恋愛ドラマのような情熱的な恋心に、ドキドキしてくる歌です。見えない恋心を「しのぶもじずり」という、目に見える布に例えているところに、ハイセンスを感じました。

しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
物や思うと 人の問うまで
平兼盛(たいらのかねもり)

(意訳)
誰にも知られないよう、ひそかに、あの人に恋心を寄せていたのに、やっぱり、顔色や態度に出ていたようです。周りの人から、「何か、物思いをしているのですか」と尋ねられてしまいました。
恋には、自分では抑えきれない力があるのですね。

──ピュアな恋心に、思わずほほえんでしまいました。一方で、次のような歌も『百人一首』に掲載されているのが面白いですね。

あわれとも いうべき人は 思おえで
身のいたずらに なりぬべきかな
藤原伊尹(ふじわらのこれただ)

(意訳)
愛し合っていたはずのあなたは、急に冷たくなってしまいました。何度、訪ねても、全く会ってくれません。このままでは、私は、あなたが恋しくて、恋しくて、死んでしまうでしょう。
だけど、そんな私を「かわいそうだな」と言ってくれる人は、どこにもいないのです。

(解説)
失恋した男が、相手の女性に贈った歌です。純情そうなこの男は、本当に死んでしまったのでしょうか。
作者は、有力な政治家の御曹司でした。美男子で、才能に恵まれ、多くの女性と情熱的な恋をしていたことが知られています。
もしかしたら、こういう歌を贈った相手も、一人だけではなかったかもしれません。

【百人一首】千年前の恋の歌の画像1

(『月刊なぜ生きる』令和4年1月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト・黒澤葵より)

出会いを大切に

木村耕一さん、ありがとうございました。

恋心もいろいろあり、『百人一首』を通して、千年前の人たちの気持ちを感じ取れるのが、うれしくなります。

出会いは人だけでない、文章や歌を通しての出会いも、また素敵ですね。