最近、腹が立つことばかりなんです。
自分勝手に振る舞って迷惑をかける人。現場を知らないのに、上から目線で言ってくる人。ウソつきやタヌキ、キツネなど。
あー、もう! 腹立つわ!
皆さんは、腹が立った時、どうされていますか?
NHK大河ドラマ「どうする家康」にも登場している黒田長政は「腹立たずの会」を開いていたそうです。どんな会だったのでしょうか。木村耕一さんにお聞きしました。
「腹立たずの会」が黒田武士の団結を強化した
──武士というと、腹が立ったら問答無用で刀を抜く人ばかりだと思っていました。
そうですね。でも、それでは誰もついてこれないでしょう。国を支えるのは、人です。ですから人の和と結束を、いかにして強くするのか、が重要になります。
──確かにそうですね。でも、血の気が多く、声も大きく、力も強い武士たちをまとめるのは大変だと思います。大河ドラマの家康も、常に悩んでいるようですし……。
はい、これは難題ですよね。
関ヶ原の合戦の後、筑前52万石の大名となった黒田長政は、「腹立たずの会」を開くことで、この難題を解決しました。しかも、非常に大きな効果があるので、子々孫々、受け継ぐように遺言したほどです。
これが、関ヶ原の戦いで、家康の敵側に味方した大名でありながらも、徳川幕府が崩壊するまでの約270年間、黒田家が地位を保ち続けた大きな要因だといわれているんですよ。
──激動の時代に、そんなに長く続いたとは驚きます。その秘訣となった「腹立たずの会」とは、どんな会だったのでしょうか。
はい、『名将言行録』には、次のように記されています。
会合場所は、福岡城本丸の「釈迦の間」。
長政は、ここに、毎月1回、黒田家の幹部を集めました。
しかも、会合中は、関係者以外、近づかないように厳命していました。
最初に、議長格の長政が、次のように誓約します。
・私は、この会合で何を言われても、恨んだり、憎んだりしません。
・この部屋を一歩でも出れば、ここで話されたことは、一切口外しません。
・私は、この会合で何を言われても、腹を立てません。
引き続き、参加者全員が、同じ誓約をしてから、ようやく会合が始まります。
話題は、お互いに改めるべき欠点はないか、同僚や家臣の間でトラブルはないか、領民からの苦情はないか、黒田藩の発展のために提案はないかなど、幅広かったようです。
──ふだん言いにくいことを、上下の隔てなく、遠慮なく話し合う場なのですね。
欠点を注意されると、誰でも腹が立つものです。つい感情的になって、冷静に自分を見つめることができず、
「そういうおまえは、どうなんだ!」
と、反射的に、怒りと復讐心が噴き上がってきます。
──そうですよ。注意するほうも、後で人間関係が気まずくなったり、嫌われたりしたくないので、なかなか言えません。
言葉にするには勇気がいりますね。
そこを乗り越えて、お互いのプラスにできたのは、「腹立たずの会」のメンバー全員が、
「少しでも向上したい」
「信用される人間になりたい」
という目的を、しっかりと持っていたからです。
──目的が大事なんですね。
それでも、話し合っているうちに、ついつい「むっ」として、顔をこわばらせる人が出てきます。すると、誰かが、
「おやおや、腹を立てないという約束を、お忘れでしょうか」
とささやきます。誓約違反を指摘されると、
「いや怒ってはおりません。とてもありがたいご指摘と受け止めております」
と、すぐに表情を和らげ、原点に返って反省する……ということがよくあったといいます。
──私もすぐ顔に出てしまうので反省します。でも、納得できないことは、文句も言いたくなるのではないでしょうか。
はい、指摘を受けた内容に合点がいかなければ、正直に、腹の中を全部出し切って、みんなに尋ねるのが約束でした。
本人が納得できなければ、「恥をかかされた」という怒りや恨みが残るだけなので、繰り返し、繰り返し、話し合いが続けられました。
この会合は、権力で抑えつけたり、殺気だったりしたものではありません。
「心に思うことを相共に残さず言い合い、互に心底に滞らざる様にして、誠に親切なる議論なり」
と『名将言行録』に記録されています。
──こんな親切な集まりはありませんね。本心から同志のことを思っていなければ、とてもできないと思います。
「もし、欠点を教えてもらう機会がなかったら、自分はどうなっていたか分からない。みんなから嫌われるだけでなく、やがて大きな過ちを犯しただろう」
と知らされると、最初に抱いた怒りも感謝の心に、ガラッと変わってしまうのです。
これによって、お互いの理解が深まり、黒田武士の和と結束が、ますます強固なものになっていきました。
他人から注意してもらえるということは、ありがたいことです。
「すぐに腹を立ててしまう自分」を反省し、素直に耳を傾け、改める努力をしていけば、必ず、明るい未来が開けてくるのです。
(『人生の先達に学ぶ まっすぐな生き方』木村耕一著より)
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木村耕一さん、ありがとうございました。腹が立っても、そこを乗り越えて、お互いのプラスにできたのは、「腹立たずの会」のメンバー全員が、「少しでも向上したい」「信用される人間になりたい」という目的を、しっかりと持っていたからと知らされました。黒田武士を見習って、明るい未来に努力していきたいと思います。
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今回ご紹介した『人生の先達に学ぶ まっすぐな生き方』の詳細は、こちらからどうぞ。