日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #195

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント〜「一生は長いから」と思って気が緩むと、目標を達成することはできなくなります(徒然草 第188段)

早いもので、今年も残すところ、あと1カ月になりました。
あっという間に一年が過ぎ去っていきます。うかうかしていると、人生もあっという間に過ぎ去ってしまいそうです。

あの時こうしておけばよかったと後悔しないためには、どうすればいいのでしょうか。

今回は、そんな生き方のヒントになる『徒然草』の一段を木村耕一さんの意訳でどうぞ。

一時の判断の誤りが、一生の後悔になります

(意訳)
ある人が、親から、
「おまえは仏教で教える因果の道理をよく学び、多くの人に伝えるようにしなさい」
と言われたので、僧侶になることに決めました。

そこで彼が、まず取り組んだのは、教えを学ぶことではなく、馬に乗る練習でした。なぜかというと、
「法事の時に、馬で迎えに来られたら、どうしよう。まともに乗れなかったら恥ずかしいではないか。落馬したら大変だ」
と思ったからです。

『徒然草』からの生きるヒント〜「一生は長いから」と思って気が緩むと、目標を達成することはできなくなります(徒然草 第188段)の画像1

さらに、歌の稽古にも励みました。
「法事のあとで、酒が出るだろう。何も芸ができなかったら、招待してくれた人が興ざめするに違いない」
と、考えたからです。

『徒然草』からの生きるヒント〜「一生は長いから」と思って気が緩むと、目標を達成することはできなくなります(徒然草 第188段)の画像2

乗馬と歌は、次第にうまくなっていきました。上達すればするほど、面白くなっていきます。

しかし、本来の目的であった、仏教を学ぶ時間がないまま、年を取ってしまい、大いに後悔したのでした。

人生の終わりに悔いを残すのは、この男だけではありません。ほとんどの人が、同じような失敗をします。

若い時には、出世したい、特技を身につけたい、学問をしたい……と、将来に大きな目標を掲げます。

しかし、何とか達成しようと思いながら、つい、「まだ若いから」「一生は長いから」と思って気が緩んでしまうのです。目の前のことばかりに心を奪われ、のんびりとかまえているうちに、月日は、どんどん過ぎていきます。結局、何もかも中途半端のまま、我が身は年老いてしまうのです。

いくら後悔しても、過ぎ去った日々は取り返すことができません。しかも肉体は、勢いよく坂を下っていく車輪のように、急速に衰えていくのです。

だから一生涯のうちで、やり遂げたいことが、たくさんあったとしても、その中で、どれがいちばん大事なのか、よく見極めなければなりません。

死ぬまでに、「これさえ果たせば満足」といえるもの、そういう人生の目的をハッキリと心に定めて、そのこと一つに向かって努力すべきなのです。

もっと具体的に見てみましょう。

一日のうちに、やりたいこと、やるべきことがたくさんあると思います。その中から、人生の目的を達成するために大切なものは何か、重要度の高いものから選んで取り組んでいくのです。

今からの一時間で何を優先して行うべきなのか、それを判断する時も、人生の目的を基準にして決めていくのです。

人生の目的を果たすために、どうでもいいものは、キッパリと捨てて、急ぐべきなのです。

やっぱり、あれもしたい、これもしたい、どちらも捨てられないと迷い、執着していると、人生の終わりに、大きな悔いを残すことになります。

(原文)
一時の懈怠(けだい)、すなわち一生の懈怠となる。是(これ)をおそるべし。
(第188段)

(『こころ彩る徒然草』木村耕一著、イラスト黒澤葵より)

人生の目的

木村耕一さん、ありがとうございました。
他人の生き方を通して兼好さんに諭されると、確かに「人生の目的」は大事だなと感じます。
ですが「人生の目的」って、あまりにも大きな問題で、どこから考えたらいいのかよく分からないですよね。

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読者から、こんな感想が届きました。

まるで絵本のように読みやすく、挿絵と文章に引き込まれました。私の人生は、苦しみの連続でしたが、「ムダなことは一つもなかったのだよ」と励ましてもらい、生きる力がわいてきました。(60代・女性)

ありがとうございます。生きる力がわいてきたとは、何よりです。今後ともよろしくお願いいたします。

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