早いもので、今年も残すところ、あと1カ月になりました。
あっという間に一年が過ぎ去っていきます。うかうかしていると、人生もあっという間に過ぎ去ってしまいそうです。
あの時こうしておけばよかったと後悔しないためには、どうすればいいのでしょうか。
今回は、そんな生き方のヒントになる『徒然草』の一段を木村耕一さんの意訳でどうぞ。
一時の判断の誤りが、一生の後悔になります
(意訳)
ある人が、親から、
「おまえは仏教で教える因果の道理をよく学び、多くの人に伝えるようにしなさい」
と言われたので、僧侶になることに決めました。
そこで彼が、まず取り組んだのは、教えを学ぶことではなく、馬に乗る練習でした。なぜかというと、
「法事の時に、馬で迎えに来られたら、どうしよう。まともに乗れなかったら恥ずかしいではないか。落馬したら大変だ」
と思ったからです。
さらに、歌の稽古にも励みました。
「法事のあとで、酒が出るだろう。何も芸ができなかったら、招待してくれた人が興ざめするに違いない」
と、考えたからです。
乗馬と歌は、次第にうまくなっていきました。上達すればするほど、面白くなっていきます。
しかし、本来の目的であった、仏教を学ぶ時間がないまま、年を取ってしまい、大いに後悔したのでした。
人生の終わりに悔いを残すのは、この男だけではありません。ほとんどの人が、同じような失敗をします。
若い時には、出世したい、特技を身につけたい、学問をしたい……と、将来に大きな目標を掲げます。
しかし、何とか達成しようと思いながら、つい、「まだ若いから」「一生は長いから」と思って気が緩んでしまうのです。目の前のことばかりに心を奪われ、のんびりとかまえているうちに、月日は、どんどん過ぎていきます。結局、何もかも中途半端のまま、我が身は年老いてしまうのです。
いくら後悔しても、過ぎ去った日々は取り返すことができません。しかも肉体は、勢いよく坂を下っていく車輪のように、急速に衰えていくのです。
だから一生涯のうちで、やり遂げたいことが、たくさんあったとしても、その中で、どれがいちばん大事なのか、よく見極めなければなりません。
死ぬまでに、「これさえ果たせば満足」といえるもの、そういう人生の目的をハッキリと心に定めて、そのこと一つに向かって努力すべきなのです。
もっと具体的に見てみましょう。
一日のうちに、やりたいこと、やるべきことがたくさんあると思います。その中から、人生の目的を達成するために大切なものは何か、重要度の高いものから選んで取り組んでいくのです。
今からの一時間で何を優先して行うべきなのか、それを判断する時も、人生の目的を基準にして決めていくのです。
人生の目的を果たすために、どうでもいいものは、キッパリと捨てて、急ぐべきなのです。
やっぱり、あれもしたい、これもしたい、どちらも捨てられないと迷い、執着していると、人生の終わりに、大きな悔いを残すことになります。
(原文)
一時の懈怠(けだい)、すなわち一生の懈怠となる。是(これ)をおそるべし。
(第188段)
(『こころ彩る徒然草』木村耕一著、イラスト黒澤葵より)
人生の目的
木村耕一さん、ありがとうございました。
他人の生き方を通して兼好さんに諭されると、確かに「人生の目的」は大事だなと感じます。
ですが「人生の目的」って、あまりにも大きな問題で、どこから考えたらいいのかよく分からないですよね。
今、話題の新刊『人生の目的〜旅人は、無人の広野で猛虎に出会う』では、「ブッダの寓話」を、世界が注目する墨絵アーティスト・茂本ヒデキチさんの挿絵を入れながら解説しています。
どんなに多くの人に囲まれていても、つねに孤独でさびしいものが心の中にあります。まさに「無人の広野を、独りぼっちでトボトボと歩いている旅人」が、私たちなのです。
トルストイが衝撃を受けた「ブッダの寓話」を、カラーの墨絵を入れながら解説します。どうすれば、老、病、死を超えた幸せになれるのか……。
読者から、こんな感想が届きました。
まるで絵本のように読みやすく、挿絵と文章に引き込まれました。私の人生は、苦しみの連続でしたが、「ムダなことは一つもなかったのだよ」と励ましてもらい、生きる力がわいてきました。(60代・女性)
ありがとうございます。生きる力がわいてきたとは、何よりです。今後ともよろしくお願いいたします。
新刊『人生の目的』は、お近くの書店でお求めください。
詳しくはこちらからどうぞ。