日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #200

  1. 人生

【清少納言『枕草子』】「清少納言よ、香炉峰の雪は、どうであろう」(第280段 雪のいとたこう降たるを)

先日は東京で初雪が観測されました。

雪を見ると私は、雪に関する曲を思い出します。
レミオロメンさんの「粉雪」、中島美嘉さんの「雪の華」、イルカさんの「なごり雪」、吉幾三さんの「雪國」などなど、歌いたくなります。

古典で「雪」といえば、『枕草子』「雪のいとたこう降(ふり)たるを」が有名ですね。
今回は、清少納言の機転がキラリと光るこの一段を、木村耕一さんの意訳でご紹介します。

さあ、テストです。「清少納言よ、香炉峰の雪は、どうであろう」

(意訳)
雪が降って、庭に高く積もった朝のことです。
いつもなら、格子を上げて、外の雪景色が見えるようにしておくのが通例でした。ところが、この日は、寒さが厳しかったせいでしょうか、格子が下りていました。

【清少納言『枕草子』】「清少納言よ、香炉峰の雪は、どうであろう」(第280段 雪のいとたこう降たるを)の画像1

皇后定子さまの元に、私たち女房が大勢集まって、火鉢を囲み、いろいろと話をしていました。

すると、定子さまが、突然、
「清少納言よ、香炉峰(こうろほう)の雪は、どうであろう」
と、おっしゃったのです。

はて、私に、何を求めておられるのでしょうか。

「香炉峰」とは、中国の山の名前です。京都の御所から見えるはずがありません。有名な白楽天の詩に、

「遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴き
 香炉峰の雪は簾
(すだれ)をかかげて看る」

とあります。

でも、ここで、漢詩を朗詠したところで、定子さまの試験に合格するとは思えません。
私は黙って、白楽天が詠んだとおりに振る舞ってみました。
女官に格子を上げさせてから、私が窓側へ行き、簾を高く巻き上げて、外の雪が見えるようにしたのです。

定子さまは、「我が意を得たり」というお顔で、にっこりなさいました。

一緒にいた女房たちは、皆、こう言っていました。
「素晴らしい機転です。私たちは、『香炉峰の雪は簾をかかげて看る』という詩は知っていましたが、今、この部屋の簾を上げるということは、思いつきませんでした。皇后定子さまは、一流の知性と教養を身につけておられます。そんな定子さまにお仕えする私たちは、もっともっと感覚を磨いていかなければなりませんね」

【清少納言『枕草子』】「清少納言よ、香炉峰の雪は、どうであろう」(第280段 雪のいとたこう降たるを)の画像2

(原文)
雪のいとたこう降たるを、例ならず御格子まいりて、炭櫃(すびつ)に火おこして、物語などしてあつまりさぶろうに、「少納言よ。香炉峰の雪いかならん」と仰せらるれば、御格子あげさせて、御簾(みす)をたかくあげたれば、笑わせ給(たもう)。人々もさることはしり、歌などにさえうたえど、「おもいこそよらざりつれ。猶(なお)此(この)宮の人にはさべきなんめり」という。(第280段)

(『こころきらきら枕草子』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)

心と心がつながる

木村耕一さん、ありがとうございました。

雪が降り積もった日常の出来事から、白楽天の詩によって心と心がつながる豊かな時間を、清少納言と共に過ごしたような気持ちになりました。古典ってステキですね。

『枕草子』を木村耕一さんが、分かりやすく意訳した『こころきらきら枕草子』は、こちらから試し読みができます。

無人島に、1冊もっていくなら『歎異抄』

『歎異抄』は、生きる勇気、心の癒やしを、日本人に与え続けてきた古典です。
リズミカルな名文に秘められた魅力を、わかりやすい意訳と解説でひらいたのが『歎異抄をひらく』です。
読者の皆様からのお便りをご紹介します。

もう何十年も前に、「無人島に一冊だけ本を持っていくなら『歎異抄』だ」という司馬遼太郎の言にふれて、人生、ある時期に達したら『歎異抄』を読みたいと、ずっと思っていました。私のあこがれの書でした。
(70歳・男性 東京都)

主人が亡くなり、寂しくてむなしい日々。さらに、「末期ガン」の宣告を受けました。やりきれませんでした。
死の恐怖との闘いの中、この本に出合いました。手にとって何度も読み返し、心静かな気持ちになり、毎日を過ごしております。ありがとうございました。
(82歳・女性 埼玉県)

日本人ならば必ず『歎異抄』は読むべきだと思います。この世知辛い世の中にあって、生きるための根本が書かれている貴重な本だと思います。
(57歳・男性 東京都)

時間をかけて、言葉を選びながらこの感想を書いていると、子どもに聞かれました。「その本は面白いの?」
面白いと感じる方には面白いのでしょう。でも私には「面白い」ではなく、難解な「なぞなぞ」を、頭を使って解いているような感覚でした。壮大な「なぞなぞ」。大変失礼な表し方かもしれませんが、不思議としっくりきていて、「『念仏申さん』と思いたつ心」が一念で起きるのを心待ちにして、この謎を解いていくつもりです。
(43歳・女性 岐阜県)

『歎異抄をひらく』は、こちらから試し読みができます。