つい、怒りにまかせて言ってはならないことを言ってしまうことは、誰にでもあることですよね。
怒りの心は、どうして起きてくるのでしょう?
今回は、親子によくあるエピソードを通して、日本の有名な哲学者や心理学者たちも学んだ名著『歎異抄』から、その「本当の理由」を探ってみたいと思います。
こんなに疲れて帰ってきたのに…
「また、こんなに怒ってしまった……」と後悔することは、どんな人も一度や二度はあることだと思います。
「後悔先に立たず」とも言われます。
感情的に爆発することを防ぐためには、まず、「怒り」とはどういうものなのか、その仕組みをよく知っておくことが大切です。
「怒り」の元は、「自分の思い通りにしたい」という心
-
「欲の心」が妨げられると、「怒りの心」が出てくるんだよ。
「怒り」という心の根っこにあるのは、「物事が自分の思い通りにならなかった」という悲しみや寂しさ、傷つき、不満、不安、といったネガティブな気持ちだといわれています。
何もかも、自分の思い通りになって気持ちが満たされているときに、怒っている人なんていませんよね。
では、怒りにまかせて振舞ってしまうとき、心の中ではどんな気持ちが動いているのでしょうか。
たとえば、このマンガのように、子どもが学校から帰ってきた途端、カバンも放り出したまま、散らかった部屋で動画やゲームに熱中している場合。
こんなとき、親の立場なら「宿題ぐらいやってからにしなさい!」と小言の一つも言いたくなります。
ところが、どれだけ注意しても聞かなかったとしたら……?
単なるイライラでは終わらず、怒りの気持ちに火がついてしまうのではないでしょうか。
感情が爆発してしまうのは、同じことを何度伝えても、相手の行動が変わらないときです。
自分が頑張っていることを無視された、たいしたことではないと否定された、と思うからです。
イライラしてしまうのは、自分にとって大切な相手だから
-
怒りの矛先は、縁の深い人に向けられてしまうもの。
自分にとって距離が近く、世話を焼いている相手であればあるほど、
- 言うことをちゃんと聞いてほしい
- 私の気持ちを尊重してほしい
- 思い通りに動いてほしい
という期待は高まります。
近所の子どもが、宿題をやらずにゲームをしていても、自分がイライラすることはありませんよね。
他の家の子どもは、「私が喜ぶことをしてくれなくて当然」で、自分の幸せとはあまり関係のない存在だからです。
一番近くにいる人にばかり感情が爆発してしまうのは、それだけ相手のことを思い、「こうあってほしい」という期待が大きくなりすぎているからです。
自分の貴重な時間や体力を削ってまで尽くしている相手に裏切られたとき、「これだけ大切にしてあげているのに、どうして…?」というショックも強くなります。
その思い通りにならない不満や不安といった感情が、「怒り」の心となって表面に出てくるのです。
どれだけ正しいと思っても、怒りは後悔しか残さない
-
怒りは無謀に始まり、後悔に終わるもの。
怒りは、自分も相手も傷つけるため、周りのものを全部焼き尽くす「炎」に例えられます。
「怒りが爆発する」という言葉があるように、怒りの炎は一瞬で燃え上がります。
さっきまで笑顔でいようと心がけていたのに、相手からしたら悪気のないちょっとした一言でカッとなり、取り返しのつかないようなことを言ってしまう。
自分の思い通りに動いてほしいという「欲」の心が満たされなかったとき、その不満が燃料となって、「怒り」の炎が燃え上がるという仕組みです。
そして、気がついたときには、「またあんなに怒ってしまった……」という後悔となります。
“後悔→自分を責める→理想の自分になれないことにまたイライラする→怒る→後悔”という悪循環から抜け出せなくなってしまいます。
『歎異抄』では、炎のようにあらゆるものを焼き尽くす「怒り」の心も、すべての人が持っている「煩悩(ぼんのう)」の一つだと言われています。
毎日毎日、自分にばかりこんな嫌な心があると思うかもしれませんが、どんなに優しそうな人でも、全く怒らない人はいません。
「怒り」の心を持っているのは同じです。
では、感情が爆発しやすい人と、あまり爆発しない人とでは、一体何が違うのでしょうか。
自分の気持ちと、相手の立場を正しく理解する
-
自分を知り、相手を知ることが、幸せになる第一歩なんだよ。
その違いは、まず、自分が怒っている状態と、その原因を正しく自覚しているかどうかにあります。
1.自分が怒っている状態を自覚する
「これから怒るぞ~」と予告して怒る人がいないように、怒っているときには、自分が怒っている自覚がありません。
「怒りに我を忘れる」という表現がありますが、自分の本当の気持ちや理性が置き去りになっている状態です。
だから、言ってはならないことを言い、後悔してしまうのです。
まずは、怒りに火がつく前の段階、自分の思い通りにならない「心配」「不安」「さみしさ」「虚しさ」「悔しさ」といった気持ちを自覚することが大切です。
それらの気持ちを言葉にしたり、相談したりすることで、怒りをぶつけてしまう前に、対処法を考えることができるようになります。
また、「怒っている」状態を自覚していると、今、その感情をぶちまけたら、必ず後で悲しい思いをする、と少し冷静に判断できるようになります。
2.相手のことを正しく理解する
自分の「怒り」だけでなく、相手についても、正しく知ることが大切です。
特に子どもの場合、そもそも思い通りには動いてくれないのが”子ども”というものです。
- 「宿題をしてから遊ぶぐらいできるでしょ」
- 「自分でご飯を作れないんだから、文句を言わずに食べるのが当たり前」
- 「片づけをして当然」
などと思っていると、裏切られることばかりです。
毎日、ちゃんと宿題をして、友達と元気に遊んで、部屋の片付けや、家の手伝いもしっかりする……、そんな完璧な子どもなんて、どこにもいません。
子どもに怒っているように見えて、実は「これぐらいできて当然」と要求レベルを上げ、欲を起こしている自分の心に裏切られ、苦しみ腹を立てているのかもしれません。
このように、自分の感情が今、どんな状態なのか、相手はどんな気持ちなのか、両方の現実を正しく知ることが大切だということですね。
心を見つめたいとき、おすすめの一冊
今回は「怒りの心」について触れました。
イライラしたときこそ、そんな心を正しく見つめ、考えるきっかけにしていただけたらと思います。
『歎異抄』には、そのような怒りの心(煩悩)で苦しんでいる私達が、どうすれば本当の幸せになれるのかが、流れるような名文で書かれています。
中でも今、「最も分かりやすい現代語訳」として、一番人気の解説書が『歎異抄をひらく』です。
今まで体験したことのない『歎異抄』の深い世界を味わいながら、心を見つめ直すひとときを過ごしてみては、いかがでしょうか。
(1万年堂ライフ編集部より)
▼詳しく知りたい方はこちら▼