「離婚したら、子どもに十分な教育を受けさせてやれないのではないか」
「子どもが小さく、一人で育てていけるかどうか」
など離婚後の生活が不安で、離婚に踏み切れず、我慢するしかないのではないか、という相談をよく受けます。
しかし、離婚後、子供を育てることになった親は、離婚相手に、養育にかかる費用(養育費)の負担を求めることができます。
ただ、その養育費はどれくらいの金額がもらえるのか?支払い方法はどう取り決めるのか?
このような疑問をもったままでは、とても離婚に踏み切ることが難しいと思いますので、こういった養育費の疑問について解説します。
養育費はどう取り決めのか?約束通り支払ってもらう方法とは
養育費の金額や支払方法については、まずは子供の両親が話し合って決めます。もちろん口頭で取り決めることもできますが、後日、その合意の有無や内容での争いを避けるために、書面を交わして合意の内容を明確にしておくべきでしょう。
書面の作成は、お互いが署名押印した「念書」や「覚書」などにしておくのが最も簡単な方法です。
しかし約束通りの支払いがされなくなった場合に、約束通りに強制的に支払わせるためには、その支払いを求める裁判をしなければなりません。
その点、合意した内容にもとづいて公証役場で公正証書を作成するか、家庭裁判所に調停を申し立てて、その中で合意した内容を調停調書(調停で合意した内容を記載した、裁判所がつくる文書)にしておけば、公正証書や調停調書には強制執行できる効力があるため、支払いが滞った場合に、裁判をしなくても預金や給料などを差し押さえて強制的に取り立てることができます。
話し合いで合意ができないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。調停では、お互いの収入や支出などの資料の提出が促され、その内容にもとづいて個別の事情を考慮しつつ、協議がなされます。
もし調停でも合意ができないときは、離婚後なら「審判」という、裁判所が金額や支払方法を判断する手続きが行われます。
また、離婚調停の中で養育費の協議も行っていたものの離婚の条件が整わず、離婚の合意に至らなかった場合には、離婚訴訟を提起することになります。その訴訟で養育費の請求も行うと、判決の中で養育費についても判断がなされます。そして、その審判や判決には前述した強制執行をする効力があります。
ポイント
- 養育費のルールは口頭でも取り決められるが、それを書面で明確にしておくべきです
- 公正証書、あるいは調停証書を作成しておけば、裁判をせずに養育費を強制的に支払わせることができます
- 調停で養育費の合意に至らなかった場合、「審判」や「離婚訴訟」により養育費の額や支払い方法が取り決められます
養育費の金額はどうやって算定されるのか?
養育費は、子供の両親がそれぞれの支払い能力に応じた金額を負担することになるので、その金額はそれぞれの収入額をもとにして算定されます。
現在は、裁判所が、速やかに養育費の算定を行う目的で、相当な養育費が分かる算定表を公表しています。
この算定表は、実際に離婚の裁判や調停などでも活用されていますので、自分が離婚することになった場合、どのくらい支払ってもらえるのかが簡単に分かります。
実際には、その算定表で導き出される金額をベースに、特別な医療費など、やむを得ない特別の負担がある場合は、別途加減がされることになります。
ポイント
- 養育費は算定表がベースになります
- 医療費など特別な事情があれば、ベースから加減されます
養育費の増減請求はできるの?
いったん養育費を決めたとしても、その後、失業、収入の増減、病気、また物価や貨幣価値の変動等の経済状況が変化した場合には、相手に対して、養育費の増額または減額、支払期間の延長などを求めることができます。
この場合も、まずはお互いに話し合い、それでも合意ができないときは、調停を申し立てて協議をすることになります。
養育費はいつまで払ってもらえるのか?大学進学や在学中の費用分担の可否
まず、養育費が支払われる期間は、子供が扶養を必要とする期間です。それは必ずしも未成年の間とは限りませんが、一般的には成人になる「20歳まで」と決められることが多いように思います。
もちろん夫婦で合意すれば、4年制大学を卒業するまでの期間を前提として、「22歳の誕生日を迎える年度の3月まで」などと決めることも可能です。
また「大学進学などで特別な費用が必要となった場合は、別途協議する」などと、将来に予想される費用負担について協議できるように取り決めをしておくこともあります。
お子さんの進学に伴う費用の負担は、親の社会的地位、学歴、経済的状況、家庭環境などの諸事情により判断されているのが実情です。
大学進学率も高くなっている現在では、20歳を超えても親の扶養を受けながら進学して勉強をしているのも特別なこととはいえない状況になっていますので、お子さんが大学在学中や、大学進学を強く希望している場合、両親の学歴や職業、資力や収入などの諸事情も考えて、高校卒業以上の高等教育を受ける家庭環境にあると判断されれば、親に大学進学費用などの学費、在学中の生活費に見合った負担をする義務が認められることもあります。
大学進学費用等の負担を求めたい場合、まずはお子さんの進学の意思を伝え、互いの状況を十分に話し合って、その費用負担について協議されることです。
ポイント
- 養育費が支払われる期間は一般に「20歳まで」です
- しかし合意があれば、4年制大学を卒業するとして「22歳の誕生日を迎える年度の3月まで」と取り決めることも可能です。お子さんの進学希望に合わせて別途協議することを取り決める、ということもあります
- 大学進学率も高くなっている現在では、成人になっても扶養されることは特別でなくなっているため、大学進学や進学中にかかる費用の負担は認められることもあります
- 大学進学にあたっての負担をしてもらうには、子供の意思、両親の互いの状況を話し合っておくことです
再婚したら養育費はどうなるのか?
まず、子供を育てている親が再婚をしても、その子と再婚相手が養子縁組をしなければ、法的には再婚相手にその子の養育義務は発生しませんので、養育費の負担額は変わりません。
一方、その子と再婚相手が養子縁組をすると、再婚相手が養親としてその子の第一次的な扶養義務者になるので、その養親に養育能力があれば、実親は支払義務を免れることになります。
ただし、養親の収入が不十分な場合には、実親も第二次的な扶養義務を負います。
その場合は減額はあり得るものの、実親に支払いを求めることは可能です。
次に、養育費を支払っている親が再婚し、再婚相手との間に子供が生まれた場合は、その扶養義務の対象者が増えることになるため、減額請求が認められることになるでしょう。
公的な手当について
以上、養育費について述べてきましたが、離婚が成立することによって、子供を監督保護する親は児童手当を受け取れるようになったり、児童扶養手当(いわゆる母子手当)などの公的な給付を受けられることもあります。
お住まいの各自治体に相談し、離婚した場合、どのような手当が受けられるのかも確認するとよいと思います。
最後はご自身の幸せが大切
一人でお子さんを育てていくには相当な覚悟が必要だからこそ、離婚後の経済的な不安から離婚に踏み切れない、という悩みはよく耳にします。
しかし経済的に安定していたとしても、離婚問題を抱え込んで、ずっと生きていくことは大変つらいことでしょう。
今回は養育費について取り上げましたが、最後はご自身の幸せが一番大切なことです。離婚の決断をするべきかどうか、自身の人生にとって何が幸せかを考える一つの参考にしていただければと考えます。