この連載では、「自然体でいられる」「自分にも優しくなれる」ために大切なことを紹介していきたいと思っています。
裏を返せば、
✅ 自然体でいられない
✅ 自分に優しくなれない
✅ 自己批判・自責感に苛まれている
このようなときに、ヒントとなる考え方をお伝えします。
自信の回復にはプロセスがある
自信をつけ、自尊感情を育て直す上で大切なことの1つは、「プロセスがある」と知ることです。
「自信が持てない、今の自分ではだめだ」と、自己否定が強いときほど、ありのままの自分を認めることはハードルが高いですよね。
困難に立ち向かって成功体験を積んで自信をつける方法もありますが、それは元々ある程度の自信を持てている時に有効な方法であり、自信が持てなくて悩んでいるときには、それ相応のやり方があります。
ステーキを食べれば元気になれる、と分かっていても、お腹の調子が悪いと食べる気にもなりません。
その時の調子によって食べられるものが変わってきます。胃腸が弱っているときは、消化の良いものから始め、徐々に食べられるものを増やしていくのと似ています。
では、心が弱っているとき、心の調子が悪いときはどうすればよいのでしょうか。
ここでは大きく3段階で考えていきたいと思います。
まずは「心の周りを整える」ことから説明します。
心の「周り」を整える
心を整えるときは、まずは心の周りから整えていくことが大切です。
「よくも悪くも縁次第」といわれるように、これは「縁(えん)を整える」ともいえます。
いきなり本丸を攻めるのではなく、周縁・環境を整えるということです。
心の「周り」を整えることについて、ここでは大きく2つに分けて考えたいと思います。
- 環境を整える
- 心の前に、身体を整える
①環境を整える
環境を整えるとは、自分の生活を見直すということです。
✅ 人間関係からどのくらいの影響を受けているのか
✅ 勉強や仕事の量は自分にあっているか
✅ 部屋が整理整頓できているか
心に余裕がなくなると、生活環境が乱れていることにも気づきにくくなってしまいます。
診療でも「自信を持てません、どうすれば自信を持てるようになれますか」という相談を受けることがあります。
その場合もやはり、まずは体調について聞いたり、現在どのような状況にあるのかを聞いていきます。
なかには、「そんな状況だったら、そりゃあ、落ち込みますよね……やる気出ませんよね……」と思うことも珍しくありません。
例えば、仕事が忙しくて睡眠時間が4~5時間しかとれない期間が何カ月も続いていたり、どんなに工夫して頑張って仕事をしても、ダメ出しばかりされていたり。
落ち着いて考えれば、
「こんなに寝不足じゃあ、頭も回らないよ……」
「これは環境を変えるしかないわ」
と思えることでも、ずっとそういった状況が続いていると、感覚が麻痺して、
「自分のやる気や根性が足りないのかな、もっと頑張れない自分が悪いのかな」と思えてきます。
このような心理的視野狭窄に陥ってしまうことは、誰でもありえますし、そうなってしまうと自分で気づくのはなかなか難しいです。
他の人の視点で考えてもらうと、上述のように「自分のやる気の問題」ではなく、少し休んだ方がいい、環境を変えた方がいいと気づけることも少なくないと思います。
「これは相手の問題でしょ」と薄々わかっていながらも、自分のせいだと思ってしまうことがあります。
そんな時、誰かに「あなたの問題ではないよ」と言ってもらえると、「やっぱりそうだよね」と安心できるものです。
ぜひ、一人で悩みを抱えずに、誰かに相談してみてください。身近にいないときは、専門家に相談してみるのもいいと思います。
②心の前に、身体を整える
そして、メンタルの悩みでも、気を付けたいのは身体の状態です。心にとって、身体は一番身近な「縁」「環境」です。
先日の診療でも「やる気が出ない、ずっとだるい」と相談に来られた方に血液検査をしたら、鉄欠乏性貧血だった、ということがありました。その方は、貧血の治療をしたらやる気も出てきて、元気になられました。
貧血があったとしても「体調だけの問題ではなく、悩みがあるから気持ちがつらくなる」ということも多いですが、いずれにせよ「まずは」身体の調子を整えることが大切です。
取り組みやすいところから改善していき、余裕が生まれることでよい循環が生まれることもあるからです。
心が不安定だと感じたとき、以下のような症状がないかチェックしてみましょう。
貧血
・顔色が悪い
・全身がだるい
・立ちくらみ
・動悸・息切れ
・夜になると足がムズムズする
・氷を食べたくなる
など、さまざまな症状となって現れます。
肉、魚、卵など、たんぱく質を多く含む食品を摂ることで、不足しがちな鉄分を補いましょう。
参考:
睡眠不足
ストレスが溜まる
→眠れない
→日中の能率が低下する
→就寝時間が遅れる
→……
の悪循環になりがちです。
参考:
医師の勧める睡眠法
脱水
「水分は摂っている」と思っていても、糖質やカフェインの多い飲料だと、摂取する以上に出て行ってしまい、水分が足りていないことがあります。水や麦茶が無難です。
空腹低血糖・糖質過多
食事の影響は意外に多いです。ストレスが多いと炭水化物(糖質)をたくさん食べたくなりやすく、糖質が多いと血糖値が乱れやすくなります。
血糖値のアップダウンが、気分のアップダウンに影響を与えることもあります。
気圧の影響
「頭痛ーる」というアプリが気圧を教えてくれます。
気圧の影響と分かっても体調は変わりませんが、「気圧のせい」と分かれば「自分を責める」気持ちが減るかもしれません。
心の「周り」を整えるチェックシート
※ご自身の環境・身体を確認するため、下のチェックシートをご活用ください。
身体も心の影響を受けることは多く、「卵が先か、鶏が先か」で、どちらが先か分からないこともあります。
そんなときは改善しやすい方から取り組んでいただければと思います。
「自然体」は作るもの
今回の連載における「自然体」とは、「考え方や気持ち」がムリしすぎていない、安定しているという意味ですが、文字通り「身体」が自然体であるためのコツも、参考になります。
私自身のことで恐縮ですが、ギックリ腰で整体に通ったときのことです。
骨盤が歪むと、背骨が歪み、それが首の歪みにもつながっていると言われました。
あちこちが歪んだ状態で「ラクな姿勢」をすると、猫背で骨盤が倒れるなど「悪い姿勢」になりやすいそうです。
本当の意味で「自然体」でいられれば、「ラクな姿勢」は「よい姿勢」になるはずです。
しかし、色々歪んだ状態で「よい姿勢」を保とうとすると、適度な力の入れ方がわからなくなるらしく、余計なところに力が入って背中がそり過ぎて、また別のところが凝ってくる。
だから「よい姿勢」も続かない。
そして力を抜いて休もうとすると、姿勢が曲がり、「なんとなく」偏った姿勢になってしまい、実はいまいち身体はラクになっていない(休まる感覚も分からない)。
そんな悪循環の中で、背中が曲がるのは、根性が曲がっているからかな、と卑屈になることもありました(笑)。
そういう意味で、自然体とは、単に脱力したり、何も意識しないでいることではなく、ある程度は意識して作り上げるものなのだと思います。
そして、うまくいくと構造的にもエネルギー的にも無理のない、安定した「自然体」が出来上がるのでしょう。
整体で教わり印象的だったのは、背筋を伸ばすためには、腹筋の使い方が大事だということです。
私の場合、腹筋が弱いのではなく、うまく使えていないと言われました。
慣れれば意識しなくても力の入れ具合がちょうどよくなるそうですが、慢性的に姿勢が悪いと、力の入れ方・抜き方がわからなくなるんですね。
ここには、心が自然体でいるためのヒントにも通じるものがたくさんあります。
心に「歪み(キズ)」がある状態で「ラク」をしようとしても、それは「よい」メンタルケアとは言えないかもしれません。
休むことへの罪悪感を回避するために「なんとなく」働き続けてしまうかもしれませんが、それでは身体も心も休まりません。
せっかく自由な時間ができても、「なんとなく」スマホを見るしか休む方法がわからない状態では、ちゃんと疲れを癒やすことはできないでしょう。
心が弱いから傷つきやすい、自信が持てないのではなく、心の守り方が分からなくなっていたり、癒えていない(カサブタにもなっていない)キズがそのままになっていたりするために、悪循環になってしまっている人がほとんどです。
自分の身体のSOSに耳を傾けましょう
現代社会は、身体からのSOSのサインさえも抑え込める(コントロールできる)ことが良しとされがちです。
学校も仕事も多少調子が悪くても我慢する、よほどの理由がないと休んではいけない、そうやってみんな頑張っているんだ、という中で生活しています。
しかし、自分の人生は自分のもの。私たちはもっと自分を大切にしていい、自分の心や体が発するサインにもっと耳を傾けてもいいのではないでしょうか。
まずは、大切な人の話に耳を傾けるように、自分の身体の声を聴いてみてください。
まとめ
メンタルの前に、フィジカル(体調)を、
認知のゆがみの前に、生活のゆがみを、
気分の安定より、日課の安定を(井原裕「生活習慣病としてのうつ病」、弘文堂、2013年)
気持ちが落ち込む、やる気が出ないのは、「心」の問題というより「身体」の影響ということは珍しくありません。
実際は、心の問題なのか身体の疲れなのか、わからないことも多いと思いますが、わからないときはまず「身体をほぐす」ことから始めてみてはいかがでしょうか。
「心をほぐす」よりも、「身体をほぐす」方が取り組みやすいはずです。
そして、「身体をほぐす」感覚が「心をほぐす」ヒントになるかもしれません。