9月27日に高森顕徹先生の『新版 光に向かって123のこころのタネ』を発刊いたしました。
心に沁みる71の金言と、1話3分で読めるショートストーリー52篇の中に、人生の悩みを乗り越えるためのヒントが詰まった一冊です。
そこで今回は、子育て本で人気の著者であり、1万年堂出版のファンとも言ってくださる、心療内科医の明橋大二先生にインタビューし、本書の中の、お気に入りのメッセージをお伺いしました。
あなたの心にも響く言葉が見つかるかもしれません!
負けている人を弱しと思うなよ
――『新版 光に向かって123のこころのタネ』の中で、明橋先生の特に心に残るメッセージを教えていただけますか。
明橋大二先生(以下、明橋):たくさんありますが、今回ご紹介したいものを5つ選んできました。
まず1つ目は、「負けている 人を弱しと思うなよ 忍ぶ心の強きゆえなり」です。
これは本当に大好きな言葉で、実はこの言葉を書にしたものを額に入れて、心療内科の待合室に飾っているんですよ。
――待合室に飾っていただいているなんて、大変光栄です! なぜこの言葉がお好きなのですか?
明橋:この「負けている」というのは、スポーツなどの勝ち負けではなく、人間関係でのことです。
人と人との間では、どうしても意見が対立することがありますよね。
そういうとき、どちらかが我慢して折れなければならないことがあります。
そこで意見を通した人は、自分が勝ったと思うかもしれません。
逆に折れた方は、自分は負けたんだ、弱いんだと落ち込むかもしれません。
でも、そういうことじゃないんですよね。
一見、負けたように見えるけれど、その人は忍耐することができる、心の強い人なんだということです。
――弱い人ではなく、本当は「忍耐できる心の強い人」なんですね。見方が変わりました!
明橋:そうです。心療内科に来る人って、人間関係の中で我慢している人が多いんですよね。
しかも、そういう自分を「弱い人間」と、さらに自分を責めています。
だからこそ、そんな人たちに、決してあなたは弱いんじゃないんだよ、忍耐する心の強い人なんだよ、ということを知ってもらいたいと思います。
――ありがとうございます。明橋先生がこの言葉をとても大切にされていることが、よくわかりました。
ありがとうの言葉
――次に挙げてくださった、「ありがとうの言葉」について詳しく聞かせてください。
明橋:これは誰にでもあることですが、私たちはつい、「自分はこんなにがんばっているのに、相手は全然がんばってない」と思いがちです。
――はい。私も余裕がないときに、そんなふうに思ってしまうことがあります……。
明橋:そうですよね。これは夫婦関係でも親子関係でもあることです。
でも、そうではなくて、「ホントは、一番のんびりしているのが私。みんなは、ギリギリ一杯努力しているのだ」と思えると、人間関係はうまくいくと思います。
この言葉をアレンジして、私は「シーソーの法則」というのを作りました。
――「シーソーの法則」ですか?
明橋:はい。真ん中に玉が1つ乗ったシーソーを想像してみてください。
そのシーソーの手前を上げると、玉は相手の方に転がっていってしまいます。
玉を相手の心だとすると、自分の方を上げると、相手の心は離れていくんですよね。
逆に、自分を下げて相手を上げると、玉は自分の方に転がってきます。
それは、相手がこちらに心を開いてくれる、ということです。
――とっても分かりやすいです!
明橋:これを親子関係で考えてみると、例えば、「お母さんはあなたのためにこれだけやっているのに、なんであなたはこんなにも勉強ができないの?」と言ってしまったらどうでしょう?
子どもはやる気を失ってしまうと思います。
でもそこで、「あなたなりに一生懸命がんばってるのに、お母さんがあまりサポートできなかったから、なかなか結果が出せなかったんだね」と言われたら、もっとがんばろうと思えるじゃないですか。
――たしかにそう言ってもらえると、お母さんのためにももっとがんばろうと思えます!
明橋:そうですよね。高校野球なんかでも、負けたチームの監督がよく言いますよね。
「選手たちは本当によくがんばってくれた。勝たせてやれなかった監督の責任です」
そう言われると選手たちは、申し訳ない、今度こそがんばって練習して監督を勝たせてあげたい、と思うじゃないですか。
これは家庭でも、学校でも、会社でも当てはまることだと思います。
なかなか自分を下げるのは難しいけれど、こういうふうに思えたら、随分、人間関係は円滑にいくんじゃないかなと思います。
――ありがとうございます。私も「シーソーの法則」を意識していこうと思います。
しばらくの縁
――では、3つ目の心に残るメッセージを教えてください。
明橋:次にご紹介したいのは、「しばらくの縁」ですね。
こうして心療内科で働いていると、身近な人を亡くしてうつ状態になってしまったという方も結構来られます。
例えば、夫婦関係のストレスで通院している方がいたりします。
毎回診療のたびに、夫がいかにひどい人かを話されるのですが、ある時、その旦那さんが病気で急死されてしまいました。
――そんな……。たとえどんなにひどい人だったとしても、奥さんはおつらいですよね……。
明橋:そうなんです。その方はすごく落ち込んで、もう旦那さんの悪口を言わなくなりました。
「結構優しいところもあった」「自分は体調が悪くて働けなかったけど、あの人が今まで私を支えてくれた」など、感謝の言葉ばかりが出るようになるんですよね。
夫婦はずっと一緒に居るから、それが当たり前で、ついついそれが永遠に続くように思ってしまいます。
でも本当は、お互いにしばらくの縁で、いつ別れるか分からないんだと、この方のお話を聞いていて思いました。
人と人との縁は、まさに電車の乗客みたいなものだと思います。
――電車の乗客ですか?
明橋:はい。自分がある駅で乗ると、少ししてから別の駅で相手が乗り込んできた。
そこでしばらくの間、同じ電車にいた。
だけど、ずっと同じ電車に乗り続けるわけにはいかない。
どちらかが先に降りなくてはなりません。
たとえ夫婦だといっても、そういう「しばらくの縁」なんですよね。
だからこそ、一瞬一瞬の縁を大切にせずにおれなくなる。
本当にこのメッセージの通りだと思います。
――そうですよね。周りにいる人との縁を、大切にしたいと心から思えました。ありがとうございます。
伸びるには縮まねばならぬ
――次は「休暇」というタイトルですが、この4つ目に選ばれたメッセージについて、ぜひ聞かせてください。
明橋:ここにある「伸びるには縮まねばならぬ」というのは、よく患者さんに言う言葉です。
ジャンプするときは、誰でも1度はしゃがまないといけないですよね。
足を伸ばしたままジャンプはできないように、高く跳ぶには縮まなければなりません。
人生も、いつも背伸びしていては疲れてしまいます。
だから時には縮むこと、つまり休むことも必要です。
これは不登校の子にも当てはまることなんですよ。
――そうなのですね? ぜひ詳しく教えてください。
明橋:不登校の子をたくさん見てきて思うのは、しっかり休んだ子ほど、そのあと自分の力ですごく伸びていく、ということです。
逆にがんばって背伸びし続けて、思うように休めなかった人の中には、大人になってから心の問題を抱えてしまう人もいます。
だからこそ、不登校という期間は決してマイナスではなくて、次に伸びるためのステップなんです。
縮んでいる間は背が低くなっているように見えるけれど、そうではなくて、次の飛躍のための準備をしているということです。
――縮むことの大切さを、よく学ばせていただきました。
焦って焦らず
――最後になりましたが、心に残る5つ目のメッセージを教えてください。
明橋:はい。36ページの「焦って焦らず」です。
焦ること、急ぐことは、時には必要です。
人生は限られた時間なので、急がなくてはいけないこともあります。
でも、急ぎすぎても、焦りすぎても、いい結果は出ないですよね。
因と縁がそろわなかったら、結果は現れない。
それまで待つことも、時には大切だということです。
――焦るとよけいに失敗してしまうことが、確かに多いように思います。
明橋:そうですよね。これは病気の回復やリハビリに関しても同じです。
回復の状況に合わせて、リハビリをしていくことが大事で、それは早すぎても遅すぎてもいけない。
早くリハビリをしたら早く治ると思って、十分治りきっていないのに無理やり身体を動かしてしまうと、逆に回復に時間がかかってしまいます。
ですから、因と縁がそろうまで待つことも大事だということだと思います。
――待つことも大切だと知れば、もっと落ち着いて行動できそうです。
休むのも忍耐
――次に、こちらからお聞きしたいメッセージをお願いします。
『新版 光に向かって123のこころのタネ』の中に、「休むのも忍耐」という言葉があるのですが、精神科医である明橋先生は、これをどのように味わわれていますか。
明橋:普通に考えると、一生懸命走り続けることには忍耐が必要かもしれませんが、休むのに忍耐が必要なイメージって、あまりないと思うんです。
でも、やらなきゃいけないことがあったとしても、今は休むべきだという瞬間もあるわけですよね。
そこで心に任せて無理をするのではなく、医者の指示に従って休むということも大事です。
それには忍耐が必要だということです。
休むというと何か悪いことのように思えて、なかなか休めないこともあるかもしれません。
だけど、そういうがんばりすぎてしまう人こそ、休むことをがんばるということも大切だと思っています。
――「休むのも忍耐」と言われた方が、がんばりすぎてしまう人も休みやすくなる気がします!
子供を叱る時は
――もう一つお聞きしてもよろしいでしょうか。
メッセージの中に「子供を𠮟る時は」という言葉があるのですが、『子育てハッピーアドバイス』の著者である明橋先生は、このメッセージをどう受け止められていますか?
明橋:子どもを育てる時に1番大切なことは、「自分は大切な存在なんだ」と思えること、自己評価を育てることです。
そのためには、一般的に「ほめることが大切」だと言われます。
それはもちろんそうなんですけど、必要なときに叱ることで、「あなたは大切な存在なんだよ」と伝えられることもあるんですよね。
――叱ることでも、自己評価を育てることができるのですか?
明橋:はい。ある非行少年は、警察に捕まった後に「一度でいいから、親父(おやじ)に叱ってほしかった」と言ったという話があります。
その子が悪さばかりするのは、「自分の心が壊れかけているから助けて」という心の叫びだったかもしれない。
それなのに、その子が悪いことをしても、お父さんは全然叱らない。
無関心だということですよね。
すると、「自分のことなんか、どうでもいいんだ」と思って捨て鉢になる。
そうやって、どんどん非行がエスカレートしていってしまったということです。
だから本当に悪いことをしたときには、「心配だ」「それだけはやめなさい」と叱ってもらうことで、「ちゃんとお父さんは自分のことを見ててくれているんだ」と思って、安心することもあるんですよね。
もちろん過剰な叱り方はよくないですが、本当に心配なときには、真剣に、命懸けで叱る。
親がそんなふうに本気で向かってきたら、子どもも「これは悪いことはできないな」と思うと思います。
この言葉は、そういった意味での叱る大切さを、教えてくれていると思います。
――叱られることで、親が自分を見てくれていると実感することは、確かにあると思いました。
この本を読んでほしい人
――では最後に、この『新版 光に向かって123のこころのタネ』を、どんな方に読んでほしいですか?
明橋:そうですね。どれも心に沁みる深い言葉ばかりですが、例えば、今が幸せで幸せでたまらないという人には、あまりピンとこないところがあるかもしれません。
しかし、人間関係や自分の将来などに悩んでいる人、何かつらいことがあって落ち込んでいる人にとっては、その苦しみを乗り越えるヒントがたくさんもらえる本だと思います。
悩んだときにぜひ読んでほしい1冊です。
――明橋先生、ありがとうございました!
読めば心が晴れわたる! 珠玉のメッセージ集
人間関係や、仕事の悩み、家庭の問題など、壁にぶつかったり、落ち込んだりしたとき、元気にしてくれる言葉をいくつ持っていますか?
今回、明橋先生にご紹介いただいたエピソードを収録した新刊、『新版 光に向かって123のこころのタネ』は全国の書店で販売中です!
ぜひお手に取ってご覧ください。