認知症ケアとして注目されている技術が「ユマニチュード」です。
ユマニチュードとは、どのような技術なのか?
なぜそれが認知症ケアに効果的なのか?
また実行するときのポイントは?
ユマニチュードの疑問点を、精神科医にわかりやすくお答えいただきました。
認知症ケアの大事なキーワードは「自己肯定感」です。
認知機能の低下によって、人間関係が薄れたり、役割がなくなりがちです。そうして未来に希望が持てなくなって自信を失ったりすることで、「周辺症状」といわれる困った症状が表れることが多くあります。そのため自己肯定感を高めることがとても重要なのです。
今回は、認知症ケアでいま世界でも注目の「ユマニチュード」を紹介します。
一体、どのようなものなのでしょうか。
「当たり前のこと」ほど意外と難しい
「ユマニチュード」とは、フランス発祥で、人間らしさ(自己肯定感)の回復をめざす「哲学」のもと、認知症患者と具体的にどう接すればよいのかを「技術」として確立されたものです。
『ユマニチュード入門』(本田 美和子、 ロゼット マレスコッティ著)の帯には「この本には常識しか書かれていません。しかし、常識を徹底させると革命になります」とあります。
当たり前のことを当たり前に行うことは、意外と難しいものです。
普段あまり意識していないことを「意識して行う」ことで、こんなにも世界が広がるのかと驚くほど、「当たり前のことの意味を見つめ直し、それを徹底する」ことには大きな力があります。
「人は、人として扱われることで人でいられる」と言われます。
この当たり前のことを実践し、気持ちが相手に伝わるように技術としてのケアを学ぶことで、ケアする側もされる側も、気持ちが楽になります。
ケアの根幹として大事なことは「人間とは何か」「人は人に何を求めるのか」を学ぶことです。
そういう点においては、認知症介護に携わる人のみならず、「ひと」と関わるすべての人に学ぶ必要がある内容だと思います。
なぜ「技術」として認知症ケアを学ぶことが大切なのか
日常の人間関係では、「察する」「空気を読む」ことで相手がどう思っているか、何をしたがっているかが、“なんとなく”分かります。
空気を読む力が人間関係力、と言われるほどです。そのため、自分が言うこと・することを事細かに説明しなくても、なんとなく通じることが多いと思います。
しかし認知症になると、認知機能が低下するために「察する」ことが苦手になり、「なんとなく」では通じにくくなります。
「これくらい分かるだろう」と普段通りに接しても、伝わっていないことが増えてきます。ここに認知症ケアの落とし穴があります。
ユマニチュードはそこに着目し、不自然なくらいに大げさな動作と丁寧な説明で、この落とし穴を補うことで「人間らしい関係」を築くことを大切にする技術です。
目的が大事だから、手段も大事。
せっかく相手を思いやる気持ちがあっても、伝わるように伝えなければ伝わりません。
自分の気持ちをきちんと伝えるためには、しかるべき伝え方を学ぶことが大切なのです。
優しさを伝える技術(ユマニチュード)の4本柱
ユマニチュードは、非情に細かく丁寧な動作を教えていますが、特に大切な4つをご紹介します。
- 見る ただ見るのではなく、視線をつかむ
- 話す 話題がない時でも、会話が続く方法
- 触れる 手をつかまず、下から支えるように
- 立つ 40秒立てるなら、寝たきりは防げる
※今回の記事では「1.見る」についてのみご紹介し、「2.話す」「3.話す」「4.立つ」は次回の記事でご紹介します
①見る
ユマニチュードで、特に大事だとされているのが「見る」ことです。
認知症になると視野が狭くなるため、本人の視界に入って、こちらの存在を認識してもらうところから始めます。
具体的には、水平な高さで、正面の位置から、近い距離で、時間的に長く相手の目を見るようにします。
水平に目を合わせることで「平等」を、
正面から見ることで「正直・信頼」を、
顔を近づけることで「優しさ・親密さ」を、
見つめ続けることで「友情・愛情」を伝えることになるからです。
反対を考えると、分かりやすいかもしれません。
見下すことは「支配・見下し」を、
目の端でにらむような視線は「攻撃・敵意」を、
遠くから見ることは「関係性の薄さ・否定的な意味」を、
ちらっと短い視線を投げかけるのは「恐れ・自信の無さ」を伝えることになってしまいます。
ユマニチュードの考案者・イヴ・ジネスト氏曰く「見ないのは、いないのと同じ」。
「見ない」ということは、「視ない」「無視」する、「相手の存在を認めない」というメッセージになってしまいます。
そうならないように、相手の目を見て、互いの存在を確認し合うことが大切です。時には「私の目を見てください」とお願いしてでも、視線を合わせることには重要な意味があります。
なかなか視線が合わない時は、視線を「つかみに」いきます。
不思議なもので、焦点があっているか、自分に気づいているかどうかは、目を見ればわかります。目があえば、話しかけたり、笑顔になりやすくなります。
言葉以前に「あなたのことを見ていますよ、あなたに会いに来ましたよ」というメッセージを伝えるのです。
「目は心の窓」「目は口ほどに物を言う」ともいわれるように、優しいまなざしの力を大いに活用してみてください。
まとめ
- 当たり前のことでも、意識して行うことでその行為が「意味」を持ちます
- 気持ちは、伝わるように伝えて初めて、相手に伝わります。察することが苦手な認知症の方には特に、伝える技術を学ぶ必要があります
- 「見る」ことは、相手の存在を認めることにつながります。そのことを意識してぜひ実践してみてください
参考文献:
・ユマニチュード入門、本田 美和子、 ロゼット マレスコッティ著、医学書院、2014年
・ユマニチュード 認知症ケア最前線、NHK取材班、角川書店、2014年
・クローズアップ現代 No.34642014年2月5日(水)放送