昔から「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるように、
9月のお彼岸を迎えるころから暑さも和らぎ、過ごしやすくなります。
ところで、その「お彼岸」とは、どんな意味なのでしょうか? 正しい意味を理解して使っている人は意外に少ないように思います。
お彼岸の意味と由来、その言葉に込められた大切な願いを解説します。
真理子
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中2の娘と小4の息子を持つワーキングマザー。お気に入りのカフェで行われている「仏教塾いろは」に参加しはじめる。 |
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智美
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真理子さんのママ友達で、在宅でデザインの仕事をしている主婦。 |
塾長
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仏教塾いろはの塾長。アメリカの大学で仏教の講義をしていた。店長とは旧知の仲。 |
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暑いわね~。
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そうですね。まだまだ日中は暑いです。もうすぐお彼岸ですから、そこまでの辛抱ですね。
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そうね、「暑さ寒さも彼岸まで」って言うわね。そういえば、お彼岸もお盆と同じで仏教と関係ありそうな日だけど、どんな日なんだっけ?
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う~ん…。お墓参りとかおはぎを食べるとかのイメージはありますけど、詳しいことは全然わからないですね。
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こういうときは、やっぱり塾長よね。
「お彼岸」の意味、由来とは?
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お彼岸について聞かれたいとのことでしたね。
「お彼岸」というのは、確かに仏教由来の言葉です。
太陽が真西に沈む、3月と9月の年2回、お彼岸がありますね。
この彼岸というのは、「此岸(しがん)」という言葉に対する言葉なんです。
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此岸?初めて聞く言葉ですね。
そういう方が多いと思います。
彼岸とは「かの岸」、向こう岸という意味で、西側にあるとされています。
それに対して、此岸(しがん)とは「こちらの岸」という意味で、東側にあるとされています。
ちょうど河をはさんで、こちらの岸(此岸・東側)と向こう岸(彼岸・西側)がある、とイメージしてもらえばいいでしょう。
此岸のあらわす「シャバ」の本当の意味は?
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へぇ~、彼岸って向こう岸ってことだったんですね。それで彼岸とか此岸って何をあらわしているんですか?
此岸とは、「娑婆(シャバ)」をあらわしています。
「シャバ」はサンスクリット語で、それに漢字をあてて「娑婆」になりました。
シャバとは、私達の生きているこの世界をいいます。
刑事ドラマを見ていると、刑務所から出てきた人が「シャバの空気はうまい」なんて使っていますね。
刑務所の外の世界という意味で「シャバ」と使っていますが、本来の意味からすれば、外だけではなく刑務所の中も「シャバ」です。
この娑婆は、中国の言葉では「堪忍土(かんにんど)」と訳されました。
堪忍しないと生きていけない苦しい世、ということです。
私達が生きていくときには様々な忍耐、ガマンをしていかねばなりません。
言いたいことがあっても言ってはいけない、反対に言いたくないことでも言わないといけない、ということが多いでしょう。
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確かに、子どものときはワガママも言いやすいけど、大人になったら駄々をこねるわけにはいかないですよね。それこそ、ガマンを覚えないといけない…。
その通りですね。家庭でも職場でも、何でも自分の思った通りにはいきませんから、ガマンが強いられます。
そうなるとストレスもたまりますし、苦しくもなります。
だから私達の生きているこの世界を、娑婆というのですね。
様々な悩み、苦しみに堪えていかねばならない世界だといわれたのです。
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娑婆ってそんな意味なんですね。
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ということは、ガマンせずに自分らしく生きろってことですか?
「ガマンせずに、自分の思った通り、自分らしく生きられたらいいな」と誰しも思うでしょう。
しかし現実に、ガマンなんかせずに、他人にまったく遠慮することなく行動しよう、振舞おうとしたらどうなるでしょう?
車の運転でも、「私は急いでいるから」と自分の思いを優先し、赤信号でも進んでいけば、自分自身も他人の命も危険にさらしてしまいます。
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自分らしくといっても、全部が全部、自分の思い通りにしようとしたら、大変なことになっちゃいますね。
彼岸とは「苦しみの無くなった世界」
そのように忍耐して、ガマンして生きていかねばならない苦しみの世界が娑婆であり、此岸なのです。
それに対して彼岸とは、その苦しみの無くなった世界のことで、娑婆に対しては「涅槃(ねはん)」といいます。
私達は、何のために生きているのでしょうか?
それはやはり、悩みや苦しみを無くして、幸せになるためですよね。
どんな生き方をしている人であろうと、その生き方をしていれば悩みや苦しみを抱えずに生きていけると思っているからですね。
そんな生き方をしていたら必ず不幸になる、とわかれば、もっと幸せになれそうな別の生き方を選択するでしょう。
東から昇った太陽も最後には西側に沈むように、どんな人も最後求めてやまない世界が彼岸(西側)であると仏教ではいわれます。
3月と9月のときは太陽が真西に沈むので、特に「お彼岸」と呼ばれるようになりました。
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此岸と彼岸の意味はわかったんですけど、結局、お彼岸って何をする日なんですか?
それは、この此岸から彼岸へと渡す船のようなものが仏教の教えだといわれていますから、仏教を聞いて早く彼岸へと渡れるようになりなさい、という願いが込められいます。
お彼岸にはぜひ、仏教を聞いて学んでいただきたいと思います。
まとめ
- お彼岸は仏教由来の言葉であり、「此岸」に対する言葉です
- 此岸は娑婆や堪忍土ともいい、様々な悩みや苦しみに堪えていかねばならない、私たちが生きている世界のことです
- 対して彼岸は「苦しみの無くなった世界」であり、すべての人の求めてやまない世界です。此岸と彼岸を渡す船のようなものが仏教なので、お彼岸は仏教を聞く機会としたいものです
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