「言葉の育ちは3歳ころまでが勝負!」とよくいわれます。
子どもは1歳過ぎくらいから「ママ」「ワンワン」など、言葉らしい音声を発するようになり、急速に語彙を増やしていきます。
3歳くらいになると、いろいろな言葉を覚え、もう大人顔負けのことを言う子もあります。
そうなると、お母さんの中には周囲の子どもと比較して、「あの子はおしゃべりが上手だけど、それに比べてうちの子は、言葉が遅れているのでは…」と、不安を感じる方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、言葉の育ちにとって大事なことは何かを、筑波大学附属聴覚特別支援学校幼稚部教諭で、子育てハッピーアドバイザーでもある佐藤幸子さんにお聞きしました。
カードや教材を使った言語トレーニングの落とし穴
私は長年、難聴の赤ちゃんや幼児の言語支援を行ってきました。
その中で、言葉の獲得に最も大事なのは、身近な人との関わりを通したイメージ作りであることを痛感しています。
難聴の子どもたちは、非常にゆっくりとしたペースで言葉を獲得していきます。
実は、このプロセスは、健常の子どもたちが言語を獲得する場合も同じです。
ですから、難聴の子どもの言葉と育ちは、すべての子どもたちにとって大事なことを、細やかに教え示してくれています。
ちまたでは、カードやドリルの教材を使った言葉のトレーニングを見聞きしますが、これには大きな落とし穴があります。
それは、人との感情の交流が作りにくいことです。
言葉は、人と人とが、同じイメージを共有しながら獲得されるものです。決して一方的なトレーニングによって獲得されるものではありません。
人との豊かな関わりによるイメージの共有に、心地よさがあるからこそ、相手に向かって様々な言葉を発するようになるのです。
この喜びを実感し合うことこそが、言葉の獲得の基礎となるのです。
喜びや悲しみ…まずは心を分かち合う感覚が大切です
イメージの共有には「共感関係」、人と人との「心の響き合い」が必須です。
どんな小さなことでも、共に感じ合える人の存在から、生きる力や元気をもらうことは、皆さんも体験していることと思います。
同じ物を見たり、聞いたり、触ったりして、一緒に笑ったり、驚いたり、喜び合ったり、怖がったりといった「心を分かち合う感覚」が、生きる力、意欲を生み出す原動力になるといっても過言ではありません。
2017年の8月31日、サッカーの日本代表がワールドカップ出場を決めました。
テレビでは、渋谷の交差点を見ず知らずの人たちがハイタッチしながら、勝利に酔う姿が映されました。
この様子に象徴されることは、人は共に喜び合い、驚き合い、悲しみ合うなど、感情を分かち合うことで、心を満タンにできるということです。
見ず知らずの人であっても、日本代表の勝利を共に願い、声を枯らして応援し、喜び合うことで、最高の充足感を得ることができるのですね。
笑ったり、驚いたり、子どもと感情のシェアをたくさんしよう
共に喜び合うことで生きる力や意欲が生み出されるのは、言葉育ちでも重要なことです。
お母さん方にぜひお伝えしたいのは、お子さんと、日常のちょっとしたことでいいので、一緒に驚いたり、不思議がったり、喜んだり、悲しんだりといった、感情のシェアをたくさんしてほしいということです。
訓練は必要ありません。
お母さん自身の感情も大事にし、自分らしく笑ったり、驚いたり、喜んだり、悲しんだりしましょう。
お子さんは、そんな感情豊かなお母さんが大好きです。
理由が分からなくとも、お母さんが笑っているだけで、子どもも一緒に笑うことがよくありますよね。
子どもは、心を響き合わせる心地よさを誰よりも求めています。
豊かな感情の育ちにともなって、お子さんは必ず、身体全体や表情、様々なトーンや声で、気持ちを表現し始めます。
そこに、うんと、共感してあげてください。
自分の気持ちを豊かに表現し、相手の思いも大事にすることができるような子どもに育っていくはずです。
ですから、言葉育ちで大切なのは、感情の交流により、共感関係を築くことなのです。
それが築けていれば、語彙については心配いりませんよ。
まとめ
- 言葉の獲得は、「知った、覚えた」ということではなく、生きる喜び、意欲に関わる大きな役割を持っています
- ドリルや訓練のようなものは、「教える人、教材」と「教えられる子ども」の間に上下関係が生まれ、共感関係(響き合う関係)が作られにくくなります
- 乳幼児期は、人との情緒的な豊かさをともなった関わりを通して、言葉の素地が作られていきます
- お母さん自身の素直な感情を大切にし、喜怒哀楽をハッキリと表してみましょう。お子さんの感情が自然に揺さぶられることで、心と一致した様々な表現が見られるようになるはずです