産院を退院した日から、いきなり始まるのが、ひっきりなしに泣く赤ちゃん(新生児)との生活です。
「赤ちゃんは泣くのが仕事」と分かってはいても、24時間365日つき合うのは、並大抵のことではありません。
育児のさまざまな悩みのうち、最初の難関ともいえる「赤ちゃんが泣き止まない」悩み。
乗り切るためのヒントを共に考えたいと思います。
赤ちゃんが泣いても、抱っこして、授乳して、おむつを替えて…、それで泣き止むなら、そんなに大変なことではありません。
問題は、理由が分からない場合です。
「何をやっても泣き止まない」
「ようやく寝たと思ったら、1時間もしないうちにまた起きて泣き出した」
「抱っこして泣き止んでも、置いたらまた泣く…」
このようなことが続くと、体はもちろん、心まで疲れ果ててしまいますよね。
そんなときは、もしかすると泣いている原因を間違えているのかもしれません。
一般的に、赤ちゃんが泣く理由にはどのようなものがあるでしょうか。
赤ちゃん(新生児)が泣き止まない7つの理由
①おなかがすいた
「フヘン、フヘン」と少し高い声で、口でおっぱいを探すような仕草をするのが特徴です。
最初に鼻息が荒くなるなど、前兆があって少しずつ泣き出す子もいれば、おなかがすいた途端にギャン泣きする子もいます。
ギャン泣きタイプは、食いしん坊で元気な証拠ですが、なかなか手強いものです。
ここで、お母さんが必要以上につらくなってしまうのは、「赤ちゃんが泣く=おなかがすいた」と思うあまり、
「母乳が足りてないのでは?」
「赤ちゃんを泣かせてしまうのは私のせい」
などと考えてしまうことです。
周りからも「おっぱいが足りてないんじゃない?」とプレッシャーをかけられることもあります。
これについて、専門家はこう教えられています。
赤ちゃんがよく泣く
欲しがるたびに飲ませてください。よく「3時間おきの授乳を」などといわれますが、そんなことにこだわる必要はありません。母乳は、要求に応じた授乳をすることで、赤ちゃんに必要な量が出るようになります。
(『子育てハッピーアドバイス 妊娠・出産・赤ちゃんの巻』吉崎達郎・明橋大二著 より)
泣いたら飲ませるを繰り返すことで、そのお母さんと赤ちゃんに合ったペースが生まれてくるのですね。
ミルクの場合も、ミルク缶に書かれた規定量にこだわりすぎる必要はありません。
「3時間空くまでは、泣いてもがまん」
「1回120㏄以上は飲ませまい!」
などと頑張りすぎると、少し足りないというだけで、赤ちゃんはグズってずっと泣き続けることもあるぐらいです。
ドカ飲みして心配していたら、そのあと4~5時間眠ってしまうことや、しばらくすると飲み方が落ち着いてくることもあります。個人差も大きいです。
一日のトータル量や、体重曲線の範囲内の成長をしているかどうかなど、大きなスパンで見ていくのがいいと思います。
②おなかが苦しい
赤ちゃんはミルクを欲しがるので、飲まないと泣き止まないのですが、それで落ち着いたかと思うと、今度は次のミルクまでにまた泣き出す、というパターンです。
これはおなかが苦しいときで、特に新生児期に多くみられます。
泣き方は、「ウエーン、ウエーン」というような、少し低めの声が特徴です。
対策としては、
- しっかりゲップを出す
- 頭を少し高くして斜めに寝かせる
- 泣いたら縦抱きにしてトントンする
赤ちゃんの胃はまだ小さく、しかもストンと直線に近い形をしているため、しっかりミルクをためておくことができません。
ゲップを出したり、頭を高くしたりすることで吐くことを防ぎ、ムカムカして苦しいのを和らげることができるでしょう。
また、うんちがたまって腸が苦しいときも、なかなか泣き止みません。
縦抱きにしてステップを踏んだり、ヒンズースクワットのような抱き方をしないと落ち着かないこともあります。
③ねむたい
大人には理解しがたいのですが、赤ちゃんは眠いときにもグズります。しかもその不快感の表し方は半端ありません。
泣いているからと思って抱っこしようとすると、「眠らせてくれ~!」と言わんばかりに、さらにのけぞって泣くこともあります。
眠いとグズるメカニズムについて、心療内科医の明橋先生はこう言われています。
赤ちゃんは、眠いと、なぜかグズります。おなかもいっぱいのはず、おむつも替えた、明らかに眠いからとわかるのに、ギャアギャア泣きます。「そんなに眠いなら、寝たらいいじゃないの!!」と叱りたくなりますが、叱ればよけいに、ギャアギャア泣きます。
いったい、どうして、眠いとグズるのでしょう。
実は、眠いというのは、意識の覚醒レベルが少し下がった状態です。そして、人間は、そういう状態のときに、暴れたり、感情をストレートに出したりするのです。
よく、酔っぱらいが、ふらふらになりながら、「おい、てやんでい」とからんだり、大声を出したりすることがありますね。そうするうちに、やがて、眠っていきます。それと同じなのです。
(『子育てハッピーアドバイス 知っててよかった小児科の巻』吉崎達郎・明橋大二著 より)
ようやく眠りかけたのに、おなかが苦しい、音がして目が覚めた、不安で眠れないなど、さまざまな要因がからんでいるため、泣き止ませるのは至難の業です。
たまにはお父さんにバトンタッチして、お父さんならではの泣き止ませ方、寝かしつけ方を開発してもらうのも手かもしれませんね。
④おむつが気持ち悪い
よくいわれる赤ちゃんが泣く理由の一つですが、お母さんが「そろそろ気持ち悪いかな」と思うタイミングで替えていれば、それほど問題になることはないと思います。
ただ、おむつがパンパンになっていても、うんちをしても、ニコニコ笑っている子もいれば、少したまってきただけで大泣きする子もいます。
これには個人差があるようです。
⑤病気
激しく泣く、何度も泣くなど、「いつもと泣き方が違う」と感じたら、それは病気かもしれません。
いつも接しているお母さんがおかしいと思うときは受診しましょう。
また、「今日はどうしてこんなにグズるんだろう?」と思っていると、その直後から高熱が出始めることもあります。
ミルクや離乳食を嫌がるのは、口内炎ができているからかもしれません。予防接種の後、急に泣く回数が増えることもあります。
病気とまではいかなくても、「こんなに泣くのは体調が悪いのかも」と理解することは、泣き止まない悩み解決の手助けとなります。
⑥寂しい、不安
これまで、主に身体の理由を挙げてきましたが、忘れてはならないのが「寂しい、不安」などの心の理由です。
特に月齢を重ねるほど、大きな部分を占めてきます。
抱っこしたら泣き止むのは、不快感を取りのぞいてもらえるというのもありますが、安心して心が満たされるからです。
3歳までの心の子育てに大切なことを、明橋先生はこう教えられています。
赤ちゃんの気持ちは、泣く、という形で表れます。「泣く」のは、生理的な欲求が満たされないときだけでなく、不安な気持ち、さびしい気持ちを表現するサインです。
そのときは、抱っこしてやります。抱っこというのは、赤ちゃんにものすごく安心感を与える行為なのです。
頭をなでてやる、とか、キスするとか、ほほえみかける、なども、子どもに安心感を与える、とてもいいことです。
(『0~3歳のこれで安心子育てハッピーアドバイス』明橋大二著 より引用)
安心感をもらった子は、
「自分は大切な存在」
「生きている価値がある」
「必要とされている」
という自己肯定感を育んでいきます。
この自己肯定感が心の土台となって、子どもは幸せに成長していきます。
泣いたら大いに抱っこしたらいいですし、いつも抱っこするのがしんどいようなら、添い寝してトントンしたり、膝の上で寝かせたりするだけでも安心するものです。
⑦ひといちばい敏感な子=HSC
赤ちゃんが泣き止まない理由で、ぜひ知っておいていただきたいのが「ひといちばい敏感な子(HSC=Highly Sensitive Child)」の特質が関係している場合です。
5人に1人といわれる敏感タイプで、最近ようやく日本でも知られるようになってきました。
赤ちゃんなら、泣き止まない、眠らないから始まり、服のチクチクしたのを嫌がる、食べ物の好き嫌いが多いなど、親からすると「育てにくい子」と感じます。
詳しく紹介した初めての翻訳本『ひといちばい敏感な子』には、次のように紹介されています。
生まれたばかりの赤ちゃんにも、性格があります。「この子は赤ん坊の頃から、聞かん坊でした」という親もいれば、「この子は大抵機嫌がよく、何があっても動じません」という親もいます。どの子どもにも、生まれ持った性格というものがあると思います。しかし、その中でも、ある程度共通する性格をまとめて、「意志が強い子」「気立てが優しい子」などのようにタイプ分けすることができます。
そしてそういった、性格(タイプ)の一つが「人一倍敏感である」ということです。
これは、子どもの15~20パーセントに見られます。男児と女児で割合は同じです。幼児の中には、食べ物や部屋の温度を全くといっていいほど気にしない子もいますが、人一倍敏感な子は、ちょっとした味の違いや、室温の変化でぐずりだし、大きな音や、まぶしい光にびっくりして泣きだします。
(『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン著、明橋大二訳 より)
ひといちばい敏感な子は、親が想像もしないことを鋭く感じ、その不快感や不安な気持ちを泣いて訴えているのです。
親は大変ですが、敏感さは同時に素晴らしい長所でもあります。
他人の気持ちに敏感で共感性が高い、正義感が強い、ユーモアのセンスがある、感受性が豊かなど、さまざまな個性となって表れます。
その長所に目が向けられれば、少しは肩の力が抜けるかもしれませんね。
泣かれるとつらいけど、それだけ赤ちゃんはママに心を許している
何が苦しいといって、「理由が分からない」ほど苦しいことはありません。それで赤ちゃんが泣く理由を思いつく限り(私の知らないで苦しんだ経験もふまえて)紹介しました。
でも実際には、「理由は分からない、でも泣き止んだ」ということも多いものです。
知っておきたいのは、赤ちゃんが泣くのには、必ず理由があるということです。
分からないことはあっても、何か寂しい、不安だ、気持ち悪い、苦しいということを、一生懸命泣いて伝えているのです。
それだけ保護者であるあなたに、全幅の信頼を寄せているといえます。
「分からないけど、苦しいんだね、嫌なんだね」と、背景にある子どもの気持ちを理解しようとすることは、これから子育てしていくうえで大切な基礎となっていくのではないかと思います。