どなたも一度はかかったことがある病気が「風邪」でしょう。
なるべく早く治したいものですが、何が適切な治し方なのか、そもそも風邪の原因とは何か、意外と分かっていないのではないでしょうか。
そこで内科医の佐々木彰一先生に、風邪の原因、それを踏まえた適切な治し方、特に注意すべき症状についてお聞きしました。
風邪とは、古来より日本で使われていた言葉で、鼻水・のどの痛み・咳に加えて発熱がある状態をいいます。
「風に乗って体の外から悪いものが進入することで起こる病気」と考えられていたので、風邪というそうです。
今日では、急性上気道炎(きゅうせいじょうきどうえん)とほぼ同じものと考えられています。
いわゆる 風邪=急性上気道炎 についてお話しします。
上気道とは、鼻~喉~気管の部分のことです。この部分にウイルスが侵入することで、そのウイルスを退治しようと体が反応し、熱を持ったり腫れたりします。これを炎症といいます。
鼻~喉~気管に炎症が起こることで、くしゃみ・鼻づまり・喉の痛み・咳・熱などが起こる、これが急性上気道炎です。
風邪の原因(ウイルス)から知る、風邪の適切な治し方
風邪の原因である、ウイルスはどのようなものでしょうか。
ウイルスは、細菌とは違います。細菌と比べて、ウイルスは圧倒的に小さいものです。
細菌が人の体の中で、他の細胞を攻撃して養分を奪ったり、自分のすみかを広げたりするのに対し、ウイルスは人の細胞の中に寄生することで自分の仲間を増やします。
ウイルスと細菌は全く異なるものですので、細菌を攻撃する薬、抗菌薬は効きません。そして実は、ほとんどのウイルスを駆除する薬は、未だ開発されていません。
幸いにして大部分のウイルスは、自分の体が駆除してくれますので、「風邪」を治すのに最も大切なのは、体にウイルスを取り除かせるために、休養とキチンとした食事によって十分体力を蓄えることです。
「風邪」の不快な症状は、薬で和らげることができます。薬でできるのはウイルスの駆除ではなく、症状に対する対処なのです。
ウイルスと細菌による、症状の違いとは?
ウイルスによって起こる症状は、細菌によって起こる症状と異なる特徴があります。
それは、細菌は自分が住み着いた特定の部分にのみ強い症状を引き起こすのに対して、ウイルスによる症状は、どこが症状の中心なのかハッキリしないことが多いのです。
鼻水も出れば咳も出るし、喉も痛い。結局どこが症状の中心なのか、わかりにくいということになります。
そこで医療者は、鼻水・喉の痛み・咳の3つのうちの2つ以上の症状があり、発症後1~数日間の患者を、急性上気道炎と診断することが多いです。
また、急性上気道炎は何度も罹かった経験のある人がほとんどですので、今までの上気道炎とよく似た症状かどうかを確認し、診断することもあります。
逆に、この経過に合わない状態は、本当に「風邪」だろうか、と思いながら診察を進めています。
咳だけが長引くときは要注意!気を付けたい症状
急性上気道炎は熱が出てから数日間で症状は軽減し、全ての症状がなくなっていくことが多いです。
しかし約5%程度の患者さんに、咳だけが残り、長引くことがあります。これを感染後咳漱(がいそう)といいます。
ウイルスが体に入ることを感染といい、それが治った後も、咳が続くということです。
丁度、切った傷がほとんど塞がってきているけれども、さわるとヒリヒリするように、喉の腫れはほぼ引いていても、空気や埃などのちょっとした刺激に過敏に咳が出るようなものです。
この咳も時が経てば徐々に収まりますので、命に関わるようなことはありませんが、薬でも中々押さえるのが難しいと知られています。
感染後咳漱でお悩みの患者さんには、咳止めの薬を、咳の状態に応じて、工夫しながら処方しています。
最初の「風邪」のような症状から2ヶ月経っても、なおも咳が続く場合、また咳がだんだん酷くなる場合は、別の病気が隠れている可能性もありますので、一度病院を受診して下さい。
まとめ
- 風邪の原因であるウイルスは、細菌とは違い、細菌と比べて圧倒的に小さく、抗菌薬は効かないのです。ウイルスを駆除する薬も開発されていません
- 大部分のウイルスは自分の体が駆除してくれるので、休養とキチンと食事をし、体力を蓄えることが風邪を治すのに最も大事です。
- 約5%程度の患者さんに、咳だけが残って長引くことがあり、これを感染後咳漱(がいそう)といいます。風邪のような症状から2ヶ月経っても、なおも咳が続いたり、だんだん酷くなったりする場合は、一度病院を受診して下さい