ストレスの多い現代社会。特にママたちは子育て・家事・仕事と、毎日目一杯で、ストレスも溜まりやすいです。
すると、ちょっとしたことで腹が立ってしまうものですよね。
腹を立ててしまったあとは、やりきれなさや後悔が残ります。
さらには腹が立つと理性も一気に吹き飛び、普段はしないようなひどい言動をし、周りを傷つけてしまうこともあります。
一時の怒りで相手も自分も傷つけないために、仏教で教えられる「忍辱」の精神を学んでみましょう。
登場人物
真理子
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中2の娘と小4の息子を持つワーキングマザー。お気に入りのカフェで行われている「仏教塾いろは」に参加しはじめる。 |
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店長
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カフェいろはの店長。美味しいコーヒーを淹れてくれる。塾長(高杉小五郎)とは大学時代からの友人。 |
塾長
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仏教塾いろはの塾長。アメリカの大学で仏教の講義をしていた。店長とは旧知の仲。 |
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はあ~。
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真理子さん、どうしたんですか?
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あ、店長さん。実は、昨日、夫と子どもにすごく怒ってしまったんです。
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そうだったんですね。どんなことで怒ってしまったんですか?
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昨日、私が仕事でヘトヘトになって家に帰って来たら、子どもから『なんでまだ夕飯できてないの~?』って言われたんです。それに旦那にも、『このみそ汁、味濃いな~』って言われちゃって…。『文句があるから、あなたたちが作りなさいよ!』と怒ってしまってしまいました。。
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真理子さんは、仕事も育児も家事もされていて、本当に大変ですよね。いろいろとストレスが溜まっている中で、いろいろ言われたらさすがに爆発してしまいますよね。
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お気遣い、ありがとうございます。。そうなんです、何もあんな言い方しなくていいのに! でも、怒ったあとは主人とも子どもとも、ずっとギスギスして、嫌な気分になってしまって…。
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そうですね。怒りを相手にぶつけてしまうと、相手との関係がますます悪くなって、後悔してしまいますよね。仏教では、怒りの心を抑える「忍辱(にんにく)」という心がけがとても大事だと教えられています。先日、ちょうど塾長がこんな話をしていましたね。
ちょっとしたイライラや怒りでも悲劇を引き起こす
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「怒り」について、仏教の観点からお話ししますね。
仏教で教えられる、特に恐ろしい心の1つが「怒り」です。
最近も、一時の怒りが引き金になって起きた事件が目立ちます。
朝出かける際、妻が見送ってくれなかったことに夫が激怒。家に火をつけて子ども4人を焼死させた事件は、記憶に新しいと思います。
その夫は自衛官の幹部をしていた人でした。
怒りによって冷静な行動ができなくなることは百も承知だったと思いますが、ひとたびカッとなると、そんな理性や外聞もすべて吹き飛び、怒りのままに行動してしまい、悲劇を引き起こしてしまうのです。
「怒りは無謀に始まり、後悔に終わるものだ」という言葉があります。
「あの人のあの言動は絶対におかしい。私は今腹を立てて当然。だから怒ろう!」とあれこれ考えてから、腹を立てる人はいません。
怒りのまま、何の見境もなく行動してしまいがちです。
しかし、周囲に怒りをばらまいてしまった後はどうなるでしょうか。
「なぜあんなことを言ってしまったのか、やってしまったのか」と後悔が残ります。
けれどいくら後悔しても後の祭りです。
一時の怒りのために、人間関係を破壊したり、職を失ったり、あるいは人を手にかけて人生を棒に振ってしまう人も少なくありません。
この怒りの心に、どう対処していけば良いのでしょうか?
心がけたい「忍辱」の精神とは?
仏教では「忍辱(にんにく)」という言葉があります。
これは「辱めを忍ぶ」という意味で、現代の言葉でいえば「忍耐」にあたります。
怒りの心に耐え忍ぶ、ということです。
この「忍辱」は、私達が怒りで身を滅ぼすことなく幸せに生きるのに大切な行いである、と教えられています。
『光に向かって こころのタネ』に、以下のような話があります。
スイスの哲学者・アボレー博士は怒らないことで有名である。
十年間も仕えているお手伝いさんが、怒った顔を見たことがなかった。
「おまえがもし、彼を怒らせたら褒美の金をやろう」
悪戯好きな博士の友人が、彼女に試させる。
いろいろ考えたお手伝いさんは、キチンと整えてあるベッドを喜ぶ博士であったから、わざとべッドの整理をしないでおいた。
「昨夜は、ベッドが整えてなかったようだね」
叱られるかなあと思っていると、翌朝ニコニコしている。
一度ぐらいではダメかと、次の夜もしなかった。
「昨夜も整理がしてなかったが、多分忙しかったのだろう。今夜はタノムよ」
女はしかし、その晩も無視した。三度目の朝、彼女は博士の部屋に呼ばれた。
「おまえは昨夜もベッドを整えてくれなかったが、よほどワケがあってのことだろう。よいよい、もう慣れたから、これから私がやることにしよう」
大目玉を覚悟していた女はたまりかねて、博士の膝に泣き伏し、ワケを話して深く詫びた。
相変わらず博士は微笑していたという。
なんと奥ゆかしい忍辱だろう。
(『光に向かって123のこころのタネ』高森顕徹著 より引用)
何をされても怒らないアボレー博士、すごい人ですね。
泣き伏し、深く詫びたお手伝いさんは、おそらく二度と博士を困らせるような悪戯はしないでしょう。
怒りに耐えることで、誤りに気付かせ、相手を変えることもできるのですね。
さすがにアボレー博士のように、何をされてもつねにニコニコしていることは難しいでしょう。
しかし怒りに身を任せては、相手との関係を破壊しかねません。
怒りの蛇を、口から出すのは下等の人間。
歯を食いしばって口に出さないのが中等。
胸に蛇は狂っていても、顔に表さないのは上等の人である。
という言葉があります。
いつも怒りの感情をストレートに出している人には、近づきたくはありません。
また、感情のコントロールができない人は、幼稚な人に見えてしまうものです。
怒りを露わにする人は、自分が未熟な人間であることを自ら露呈している、とさえ言われます。
逆に、何があっても顔に出さない人は、人格者だと尊敬されます。
日々腹が立つことは多々ありますが、その感情を表に出さず、「忍辱」の精神を心掛けたいものです。
ちょっとの冷却時間が身を守る
「忍辱」の精神は大事!
…とは言っても、やっぱり腹が立つのが私達です。
では、腹が立った時にはどうすればいいのでしょうか。
『こころの道』には、その心がけが教えられています。
一人の男が、高僧から、こう伝授された。
「これは、と思う急な時には、まず『堪忍、堪忍』と唱えて、後ろへ三歩下がりなさい。決して、そのまま前へ進んで、カッとなって思ったとおりのことをしてはなりませんよ」
それから六年たった、ある日のことである。
彼は、久しぶりに故郷へ帰った。我が家に着いたのは、もう夜更けであったが、中からは明かりがもれていた。
戸の隙間から、そっと中をのぞくと、妻が立って仕事をしている。
ところが、その側には、頭巾をかぶって顔を隠した男がいるではないか。
「さては、浮気しているな! おのれ!」
彼は烈火のごとく怒りを発し、短刀に手をかけた。
この時、ふいに、六年前の高僧の言葉、
「忍び難き場面に直面したら、『堪忍』と唱えて、三歩下がりなさい」を思い出したのである。
「堪忍、堪忍」と言って、後ろへ三歩下がると、
「急ぐな、今、やつらを殺せば、我が身は、殺人罪。もうこの家にはおれない。親や子どもは、どんな思いをするか……」と思えてきた。
彼は、心を静めて、家の戸をたたいた。
すると、頭巾で顔を隠していた男が、すぐに戸を開けに来て、
「婿殿、今、帰ったのか」
と、満面の笑みで迎えてくれる。
頭巾を取った姿は、男ではなく、妻の母であったのだ。
母は笑って言う。
「少しでも生活費を稼ごうと、夜なべ仕事を始めたんです。でも、夜は、女だけではぶっそうなので、私が男に変装して、この家を守っていたんですよ」
彼は、大地にひれ伏して、
「ああ、『堪忍』の一句がなければ、俺は今ごろ、妻と母を殺していたんだ。恐ろしい結果になるところであった。浅はかであった……」
と、泣いて懺悔するのであった。
腹が立ったら、百数えよ(イギリスの諺)
(『こころの道』木村耕一著 より引用)
どうしても腹立ちが収まらなければ、数を数えて落ち着く、その場から離れて時間をおく。
「いつもの怒りの心が出てきたぞ」と、客観的に腹立ちを見つめることも有効と言われます。
男が高僧の言葉を思い出して殺人を踏みとどまることができたように、ほんのわずか数秒間の心があるだけで、自らを危機から救うことができるのです。
「忍辱」は、一時の怒りで自分や周囲を傷つけないための、大事な心がけなのですね。
人間は感情の動物。ゆえに怒りをおさえるのはなかなか難しいことですが、だからこそ胸にしっかり留めて、かわいい子どものためにも、忍辱の精神を心がけたいですね。
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怒りはとても恐ろしい心ですね。。怒りに身を任せると後悔することがよくわかりました。カッとなったときは、ちょっとでもいいから、冷却時間を取りたいと思います。。。
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どうしても納得いかないこともあると思います。そんなときは1人で抱え込まず、ぜひ相談してくださいね。美味しいコーヒーを淹れてお待ちしていますよ。
まとめ
- ストレスが多く、イライラがつのりやすい現代。子育て中のお母さんならなおさら。ちょっとしたことで腹が立ちます
- しかし、怒りは無謀に始まり後悔に終わるもの。一時の怒りで周囲を傷つけてしまった後に後悔するのは、自分自身です
- 怒りは大変恐ろしい心だからこそ、仏教ではその怒りを耐え忍ぶ「忍辱」の心がけが、大変善い行いだと教えられています
- 人間どうしても腹が立つもの。腹が立った時は、忍辱の精神を思い出し、感情のままに行動しないよう心がけたいものです
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