昨年、大ヒットしたマンガ原作の恋愛ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。
再放送を希望する声が多く寄せられたことから、大晦日の朝から元日にかけて全11話が放送されることになり、再び話題になっています。
そのドラマで注目されたのが「契約結婚」という言葉です。
ドラマ『逃げ恥』の中で、主人公たちが交わしていたわけですが、これって実際は法律上アリなのでしょうか?
森長弁護士に、真偽を解説していただきました。
そもそも結婚するには「婚姻届だけではNG」
多くの方は「結婚するには婚姻届を役所に出せばいい」と思われているようです。
しかし法律上それだけでは不十分。夫婦の間に結婚する意思がなければならないとされており、これがない場合、その結婚は無効となります(民法742条1号)。
裁判所はこの結婚する意思のことを「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」と解釈しています。
なんだかよくわかりませんが、かみ砕いて言いますと「本当に夫婦関係になりたいと思う意思」ということになるでしょう。
婚姻届を出す夫婦が多い一方、最近では婚姻届を出さない事実婚(内縁)も広く知られるようになってきていますね。これらのいずれにしろ、2人の間に「夫婦関係になりたい」「夫婦生活を送りたい」という合意が必要なのです。
そんなの当然でしょ…と思われるでしょうが、実はそうでもありません。
このような結婚する意思がないのに、婚姻届だけ出したり、同居したりすることがあります。これらは「偽装結婚」と呼ばれており、日本国籍の不正取得や、脱税目的などでされます。
このような偽装結婚は、法律上結婚関係ではないばかりか、犯罪にあたる可能性があります。
「契約結婚」とは?偽装結婚との違い
「契約結婚」は、法律上定められたものではありませんが、一般的には「結婚前に、結婚生活での約束事を、あらかじめ結婚契約書に記載した結婚」のことを「契約結婚」と呼ぶことが多いようです。
実際の約束事の内容としては、たとえば、
- 夫婦別会計で生活すること
- 財産の分け方
- 家事の分担
- 入籍するかしないか
- 離婚の条件
- お互いの親兄弟との関係
などが盛り込まれることが多いようですね。
このような結婚契約書は、結婚生活での約束事なので、結婚関係でなければ意味がありません。婚姻届を出す夫婦が作成することもありますが、婚姻届を出さない事実婚カップルが作成することもあります。
言い換えますと、契約結婚は結婚の1つの形であって、本物の結婚ではない偽装結婚とはそこが違います。
「『逃げ恥』の契約結婚」は偽装結婚
ドラマでは、当初、2人は入籍せず、家事全般を引き受ける代わりにお金を払い、周りには結婚したことにしています。実態は住み込みのハウスキーパーですね。
作中にもあるように、関係は「夫」と「妻」ではなく、「雇用主」と「家政婦」なわけです。
このように、2人には同居するつもりはあっても、夫婦になるつもりはないので、結婚する意思がありません(後半は恋愛に発展してプロポーズまでしてしまいますが…)。
したがって、2人の関係は契約結婚というよりも、結婚関係を装った偽装結婚に近いと考えられます。
犯罪になる可能性もある…
まず、結婚するつもりがないのに婚姻届を提出した場合、戸籍にウソの記録をさせたことになるので、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)にあたり、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
作中では、2人はまだ婚姻届を出していないので、このあたりは安心ですね。
また、本当は結婚していないにもかかわらず、結婚しているとして税金の控除を受けた場合、これは脱税となります。
さらに、会社の手当や国や県からの給付金などのお金を受け取った場合、詐欺罪に問われ、10年以下の懲役刑に処せられる可能性があります。
ドラマでも、どうも家族手当が支給されるような描写があります。これを実際に受け取っていた場合は詐欺にあたり、2人は共犯として罪に問われるおそれがあるといえます。
しかし、2人の間でだんだんと恋愛感情が育っていますので、仮に詐欺にあたるとしても、本物の夫婦生活になっていけば、罪に問われる可能性は低いでしょう。
とはいえ、お金をだまし取ることなので犯罪は犯罪。周りをごまかす程度ならともかく、お金をもらってしまったら笑い事ではすみません。安易にこのようなウソをつくべきではないでしょう。
ドラマをみて、「私も!」と思う人がどれだけいるか分かりませんが、その点はお気をつけください(笑)
まとめ
- 結婚をするには夫婦の関係になる意思が必要で、これがないと偽装結婚になる
- 契約結婚とは「結婚前に、結婚生活での約束事を、あらかじめ契約書にした結婚」で、結婚の1つの形であり、偽装結婚とは違う
- 「『逃げ恥』の契約結婚」は偽装結婚にあたり、犯罪にあたる可能性がある
「ウソから出たまこと」という言葉はありますが、たいていウソはウソをごまかすためにより大きなウソを呼ぶもの。気がついたら犯罪に手を染めていた、なんてことにならぬよう…。