私たちの健康維持に欠かせないのが、「睡眠」です。
睡眠不足になると、病気へのリスクが高まり、健康でいられなくなってしまいます。
具体的にどのようなリスクがあるのか。また、不眠の原因とは何でしょうか。
睡眠について気になることを、精神科医の高木英昌医師にお聞きました。
(1万年堂ライフ編集部より)
こんな症状も睡眠不足?5人に1人が悩んでいる睡眠
寝たいのに寝つけない、夜中に何度も目がさめる、もっと寝ていたいのに朝早く起きてしまう、
寝たはずなのに寝た感じがしない、起きたいのに朝起きられない、日中寝たくないのに眠たくなってしまう。
「眠れない」にも、いろいろあります。
ほかにも、ボーッとして集中できない、注意散漫になってしまう。
いつのまにか寝てしまい、起きたらすごく疲れている。
イライラする、気分が落ち込む、頭痛、ダルい…。
睡眠不足が関係していると思われる症状は、たくさんあります。
それら睡眠関連の困りごとが、遅刻、欠勤、不登校、居眠り運転、作業効率(注意力・記憶力)の低下などを引き起こすことは少なくありません。
最悪、過労死にもつながる問題として、注意喚起がなされるようになってきました。
厚生労働省のデータによると、睡眠で何らかの困りごとがある人は、5人に1人、約2000万人いるそうです。
日中の眠気で困っている人も、6人に1人といわれ、睡眠不足による作業効率低下の経済的損失は、3兆円にものぼると指摘されています(『睡眠障害の社会生活に及ぼす影響と経済損失』より)。
睡眠時間を8時間とすると、人生の3分の1を占める睡眠。
この睡眠の質をいかに高めるかが、残りの3分の2の人生を充実したものにできるかどうかのカギを握るといっても過言ではありません。
睡眠不足は、いい仕事の敵だ。それに、美容にもよくねえ。
(映画「紅の豚」 ポルコ・ロッソ)
睡眠不足で跳ね上がる「生活習慣病のリスク」
睡眠不足は、さまざまな病気とも関連があることが分かってきています。
特に6時間未満の睡眠が続くと、身体にストレスや緊張状態による負担がかかります。すると、高血圧や糖尿病、過食や肥満などの生活習慣病のリスクが、1.5~2倍に上がるといわれます。
これは逆に考えると、睡眠を十分にとることによって、生活習慣病が改善する可能性があるということです。
ある研究では、自覚していない睡眠不足(潜在的睡眠負債)が平均して1時間はあり、8時間寝るようにすると、血糖値やストレスホルモンなどが安定したと報告しています(国立精神・神経医療研究センター、2016)。
生活習慣病は、サイレントキラーともいわれます。それ自体は症状を出さずとも、徐々に血管にダメージを与え、脳卒中や心筋梗塞などの原因となるのです。
命に関わる病として、ガンも見過ごせません。睡眠不足が免疫力を低下させ、悪影響を与えている可能性は低くないでしょう。
最近話題なのが、認知症です。認知症の原因の一つといわわれる脳にたまる老廃物「アミロイドβ」は、寝ている間に洗い流されていると考えられています。
しかし睡眠不足が続くと、このアミロイドβが蓄積しやすくなります。認知症予防にとっても、十分な睡眠は不可欠です。
「睡眠は薬にまさる(Sleep is better than medicine)」という格言もあります。
睡眠は、食事や運動と同じく健康の土台であり、基本なのです。
年齢別で変わる適切な睡眠時間
では、どれくらい眠れば十分なのでしょうか。
基準は「日中、眠気を感じなければ十分」とされています。あるいは、朝起きたい時間に起きられるか、を目安にするのもいいかもしれません。
また必要な睡眠時間は、年齢とともに徐々に減っていきます。
一般的には、10代は8~9時間、成人は7~8時間、60代以上は6~7時間といわれます。
これくらいの時間を目安に、
「寝ようと思っても、寝つけない。夜中に目が覚めてしまう。朝早く目が覚めてしまい、日中の眠気で困っている…」
といった場合は、睡眠の対策を立てたほうがいいと思われます。
また仕事などで、そもそも睡眠時間を十分に確保できない場合は、次善の策として質を高める工夫が必要になります。
眠れない大きな3つの原因
「眠れない」にもいろいろあることは上述しましたが、原因は大きく3つ+αです。
- 体内時計(概日リズム)の乱れ
- 深部体温リズムの乱れ
- 緊張とリラックスのバランスの乱れ
- その他(さまざまな薬の副作用、睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群など)
あとはその応用と考えていいと思います。
それぞれの原因に合わせて、取れる対策はいろいろあります。次回以降、詳しく解説していきます。
最大の敵でもあり、最強の味方でもある睡眠
よい睡眠は「百薬の長」である一方、睡眠不足は「万病のもと」です。
睡眠を上手にとれるかどうかによって、健康にとっての最大の敵にも最強の味方にもなりえます。
最近は、スポーツやビジネスでも睡眠の大切さが注目されており、「スリープコーチ」の指導を受けているオリンピック選手もいるそうです。
オリンピック2連覇を達成したフィギュアスケートの羽生結弦選手は、以前から、「僕は眠りを大切にしています」と語っています。
金メダルを獲得したスピードスケートの小平奈緒選手も、大会前に「最後の課題は睡眠」と言われていました。
徹底した自己管理でも有名なイチロー選手も、「最も気をつけていることは寝ることです」(『夢をつかむ イチロー262のメッセージ』)と語っています。
このことから分かることは、何となく寝るのではなく、意識して睡眠の質を上げる工夫をすることで、日中のパフォーマンスを高めることができるということです。
健康にいいことは、大抵嫌われるが、唯一好まれるものがある。心地よい夜の眠りである。
(E・W・ハウ)
心地よく眠って、心身の健康を整え、好きなことや大切なことに、力一杯取り組みたいですね。