「朝起きたら、朝日を浴びましょう」とよく言われます。
しかし、「分かっちゃいるけどできてないな」という方も少なくないのではないでしょうか。
太陽の光を浴びることに、どんな意味があるのか?
睡眠のメカニズムから、一歩踏み込んでご紹介いたします。
なぜ朝日を浴びるのが大事なの?キーワードは「メラトニン」
「朝なかなか起きられない」
「夜の寝つきがよくない」
その悩み、もしかしたら、体内時計が乱れているからなのかもしれません。
私たちの体には、体内時計が備わっています。概日リズム(サーカディアンリズム)ともいわれます。
この体内時計によって、私たちの睡眠リズムも調整されています。
体内時計は約25時間周期のため、24時間のリズムに合わせるには、毎朝リセットする必要があります。
リセットする上でカギを握るのが、太陽の光を感知して睡眠リズムを調整するメラトニンという睡眠ホルモンです。
メラトニンは、光を感知すると分泌が止まり、暗くなると増えてきます。朝になると目が覚めて、夜になると眠くなるのは、このメラトニンのおかげなのです。
メラトニンは朝日を浴びてから(リセットしてから)約16時間後に増え、眠くなってきます。朝6時に起きれば、22時(夜10時)ごろに眠気がくる計算になります。
体の中では、朝起きたときから夜寝る準備がすでに始まっている、ということです。
つまり、朝日を浴びる時間が、その日の夜眠くなる時間を決めるということです。
(個人差もありますし、体調や心身のリラックス具合によっても多少の前後はあります。自分は朝日を浴びて大体何時間後に眠くなることが多いか、ぜひ確認してみてください)
寝る時間と起きる時間、どちらを固定すればいいかと聞かれることがありますが、この体内時計のメカニズム考えると、「朝起きる時間を決める」ほうが理にかなっていることが、お分かりいただけると思います。
休日も起きる時間は一定にした方がよいのは、朝起きるのが遅くなり、朝日を浴びる時間が遅れると、その夜の睡眠に影響を与えるためです。
日曜の朝、昼前まで寝ていると、月曜の朝がつらくなります。どうしても二度寝したいときは、カーテンをあけて朝日を浴び、夜への影響を最小限にとどめたいですね。
また、夜に向けて眠くなっていくことを「睡眠圧が高まる」と表現されることもあります。
睡眠圧を高めるための最大のポイントは、夜寝る前(夕方や夕食後)は、眠くても寝ないことです。
15時前の30分以内の浅い昼寝は、夜の睡眠には影響しにくいといわれますが、夕方以降に1時間以上寝てしまうと、朝から貯めてきた睡眠圧がプシューっと抜けてしまい、夜の睡眠が浅くなってしまいます。
睡眠は夜にまとめるようにしたほうが、質のよい深い眠りになりやすくなります。
「朝日」が良い理由は?太陽の光は“ケタ違いのエネルギー”
メラトニンは光に反応することをご紹介しましたが、なぜ「朝日」を浴びることが大切なのでしょうか。
部屋の照明ではダメなのでしょうか。
メラトニンの分泌を抑えるのに必要な光の強さは、1500~2500ルクスといわれます。
通常の室内照明はせいぜい500ルクスで、体内時計をリセットするには足りません。
一方、朝日は屋外だと10万ルクス(曇りでも3万ルクス)、室内でも窓際1メートル以内なら3000ルクスの光の強さがあるとされます。文字どおり、ケタ違いのエネルギーなのです。
防犯上問題なければ、カーテンを少し開けておくのもいいと思います。
身体が朝を感知するのは、起床後だいたい3時間後までといわれ、早ければ早いほど効果的です。
朝起きたら、窓の近くで朝日を浴びながら歯を磨いたり、新聞を読んだり、朝食を摂ったり、場所を決めてしまえるといいですね。
参考:第15回 光は「いつ浴びるか」より「浴びた量」 冬季うつのメカニズム
就寝前のスマホで、◯割が不眠症に?!
一方、夜スムーズに寝つくには、夜に強い光を浴びないように注意する必要があります。
就寝時は真っ暗にするか、月明かり程度、何となく室内が見える程度にするのがおすすめです。
夜中にトイレ等で起きた際にも、隣の部屋の明かりをつけるなど、明るくしすぎないようにすると、また寝つきやすいと思います。
コンビニの照明は2500ルクス以上のところが多く、かなり強い光です。
夜間は控えたり、長居はしないようにしたいですね。
寝室は暖色系の間接照明にし、寝室以外でも強い光を浴びないことです。
メラトニンは波長の短い(青白い)光によって、分泌されにくくなります。
白く明るい蛍光灯よりも、波長が長い(赤っぽい)暖色系の照明を、直接光が目に入らない間接照明とすれば、徐々に自然な眠りに入りやすくなります。
パソコン、スマホなどのブルーライトも、脳を目覚めさせてしまいます。
最近は「スマホ不眠」という言葉も定着しつつあるほどです。睡眠薬を飲んでも眠れない、眠りが浅いという人で、寝る前にスマホを見ているという人は少なくありません。
睡眠薬を飲んでからスマホを見るのは、アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので、脳にも負担がかかってしまいます。
特に、寝る準備をして部屋を暗くしてからベッドでスマホを見ると、暗い中で少しでも光を感知しようと網膜が開き、さらに脳に刺激を受けてしまいます。
心地よい眠りのためには、ベッドにはスマホなどのデジタル機器は持ち込まないようにしましょう。
スマホ依存による不眠症は、決して他人事ではありません。以前、このようにも紹介されていました。
「就寝直前までスマホ、7割が不眠症の疑い」
今年8月にインターネットで調査を実施、20~70代の男女計1200人から回答を得た。
就寝時のスマホやタブレットの利用状況を聞いた質問では、412人(34%)が「就寝直前まで利用している」と回答。年代別では、20代が59%、30代が57%と半数を超えた。そのうち20~30代の67%が、寝付きや日中の眠気など八つの質問からなる国際的な不眠尺度で「不眠症の疑い」に該当した。
(朝日新聞デジタル 2015年12月2日(水)11時48分配信 より一部抜粋)
「不眠症の疑い」が、どの程度眠れない状態なのかは、これだけでは分かりませんが、就寝前のスマホは控えるに越したことはないでしょう。
良質な睡眠のために、メラトニンの“材料”を食べましょう
睡眠ホルモンであるメラトニンは、「セロトニン」という、いわゆる幸福ホルモンからできます。
セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸(タンパク質)が材料です。
つまりタンパク質を摂取することは、メラトニンの材料を補充するということにもなります。
おススメは、豆腐や納豆などの豆類、チーズやヨーグルトなど乳製品、卵などです。
またバナナには、トリプトファンに加え、一緒に摂取するとよいビタミンB6やマグネシウムも含まれています。
朝食の定番の納豆ご飯や、卵かけご飯、バナナ、ヨーグルトなどは、睡眠にはもってこいの簡単メニューですね。
セロトニンの分泌も!朝の散歩は、いいことづくめ
セロトニンは、気持ちを安定させるホルモンで、うつ病との関連が指摘されています。
うつ病になると眠れなくなる人が多いのも、セロトニンとメラトニンの関係から分かります。
うつ病で夜眠れない人には特に、朝の散歩がおススメです。
朝は9時前には起きて、できるだけ午前中に30分ほど散歩をしましょう。
イギリスのうつ病治療のガイドラインでは、軽度から中等度のうつ病には、週に3日、30分ほどの運動療法(散歩)が推奨されています。
朝の散歩は、太陽の光を浴びることで体内時計をリセットさせ、リズミカルな歩行がセロトニンの分泌を促して気持ちを安定させ、適度な運動でもあり、心地よい疲れが夜の睡眠を促してくれる。
朝の散歩は睡眠にとっていいことづくめなのです。
少し大股で、リズミカルに歩くことがポイントですよ。
まとめ
獨協医科大学の井原裕教授は、次のように教えられています。
メンタルの前に、フィジカル(体調)を、
認知のゆがみの前に、生活のゆがみを、
気分の安定より、日課の安定を
誰でも、体調を崩せば、精神的にも不安定になります。
生活リズムが乱れれば、集中力や記憶力にも影響が出てきます。
生活の乱れは、心の乱れ。
イライラ、不安、抑うつ気分との関連も少なくありません。
睡眠は、体調、生活リズム、日課など、いずれにも関係するものであり、メンタル、認知、気分すべてに影響を与えます。
自然のリズムに合わせるのが、私たちの体にとって、最も心地よいリズムです。
自分の健康は、自分で守らねばなりません。
なんとなくではなく、意識して「健康のタネ」をまきましょう。
参考:
・井原裕ら監修「くすりにたよらない精神医学[現場編]」、日本評論社、2017年
・功刀浩「こころに効く精神栄養学」、女子栄養大学出版部、2016年
・井原裕「生活習慣病としてのうつ病」、弘文堂、2013年